2016年9月6日火曜日

佐渡国際トライアスロン Bタイプ2016のこと

 結果はDNF。
 駐車している車にバイクでほぼ減速せずに突っ込んでしまった。前方確認を怠った僕の不注意によるものだ。ただ今振り返ってみても、どうして車の発見が遅れたのか皆目見当がつかない。油断が生んだ事故としか言いようがない。
 車に激突してアスファルトに叩きつけられた瞬間のことはよく覚えている。ヘルメットが吹っ飛び、身体を打った衝撃で息が吸えずに道路をもんどり打ちながら胸を押さえて幾度となくウォー!と叫んでいた。
 それからどうやって起き上がったか覚えてはいないが、誰かに支えられながらだろうか、バイクを起こしてレースを続けたいのでこれを見て欲しいと、駆けつけたシマノのメカニックに点検をお願いしたことも覚えている。
 気がつけば警察の方や救急車が到着し、僕はレース継続の意思を伝え、メカニックの方からバイクの状態を伺いつつ、救急隊員の質問に答えていくうちに少しづつ自分の体の状態を把握しはじめた。
 シマノの方からは「左肩が落ちてるのでバイクに乗るのは無理じゃないか」と言われ、救急隊の方からは、仕切りに他に痛いところやシビレなどがないか確認された。そんな時にチームメイトのH澤さんが通り掛かり、バイクを降りて様子を見にきてくれた。ちょうど隊員の方から脇を支えられて首にコルセットを嵌められていた時だったと思う。そんな状況を目の当たりにしたH澤さん、心配そうにしていた表情が一気に崩れ、泣き出してしまった。
 僕は「大丈夫」を繰り返しながら、彼女にレースに戻ってもらおうと思い「僕の分まで頑張って」と言った。
 その台詞が今年の佐渡トラの幕引きとなった。

 救急車に乗せられ、横になりながら何度か涙が出そうになった。まさか自分がこんなことになるなんて。自分とは無縁と思っていたことが、今、現実にこうして起こっている。搬送中、隊員がイロイロと声を掛けてくれ気の利いた言葉で返そうとするがまるで浮かばなかった。
 担架で病院に運ばれ、レントゲンを撮り診察を受ける。
 左腕が上がらない、何かにつかまってないと立っていられない。鎖骨にヒビが入っているかもしれないし、他も気になる所もあるから翌日に専門医に診てもらうようにとアドバイスをいただき、三角巾で左腕を吊るしてもらう。ガラス窓に映る自分の姿を見て、なんともわかりやすい怪我人の出来上がりだなと思った。

 薄暗い待合室で病院の方から、大会スタッフが迎えがに来るので待っていてくれと言われ、ソファに腰を下ろしていると、肩や腕、背中、それから脚に外傷を負った僕と同じ境遇であろう選手が現れた。痩身で無駄のない躰つきからバリバリのアスリートであることはすぐに判った。
 彼は当然のように僕の隣に腰を下ろした。そしてどちらともなくレース中の自分に何が起こったかを話し合った。互いの無念さを吐露することで心の傷を癒そうとするようだった。

 僕らはスタート会場の河原田小学校の体育館に送迎され、トランジション内に置いた自分の荷物を渡された。荷物を片付けている最中、会場からはレースを実況するアナウンスが時折聞こえてくる。それは一種の拷問みたいでとても虚しく響いた。突如、レースから切り離され、レースに関係のない時間を過ごしていることが居たたまれない。それは仕方のないことだとは判ってはいるが、この日に到るまでの経緯は一体なんだったのか、そしてこれからどうすれば良いのか、皆目見当がつかない自分が居る。

 何かしていないと落ち着かないので、事故に関わった関係者への連絡を済ませた。殆どのことは大会事務局に相談したことで概ねクリアになった。そうするようにアドバイスをしていただいたマーシャルの方にお礼を述べなければならない。問題が一つ整理され、少し気持ちが晴れた。

 午後1時、バイクが僕の元に届けられた頃、東京から応援に駆けつけてくれた知人と合流した。結局、彼は新潟まで僕をエスコートする羽目になったのだが、嫌な音一つ出さずに帰りの道中、始終気遣ってくれた。きっと彼は、この日のこの僕の為に神様が遣わした人なのかもしれない。そう思うと、ひょっとするとこれらは決して偶然ではなく、僕の競技人生において必然だったのではないか、つまりこれもまた一つの試練であり、何かの啓示なのかもしれないなと思えてくる。

 帰路、バスで両津港へ向かう。
 偶然は重なる。再会を誓い河原田で別れたバリバリのトライアスリートHさん、さらにもう一人、僕らが病院のソファで身の上話に耽っているときに見かけた、これまたDNFの女性選手がバスに乗り込んできて、僕ら4人の会話に華が咲く。
 もちろん次のレースは頑張ろう、また来年、佐渡に挑戦しようという前向きな話題だ。バッキバキに折れた気持ちが再び立ち直ろうとする、そんな感触があった。

 全ては偶然なんかじゃなく、僕の意思で決めた必然。
 経験に無駄なことなんて何一つない。しっかり向き合い、いかに対処するか。冷静と情熱。この屈辱を乗り越える過程の中で精神と肉体を打たれ強くすればいいのだ。
 そして、この日のこのことを通じて出会った人々や、弱った僕に差し伸ばしていただいた様々なことを決して忘れずにいよう。
 絶対、もっと強くなる。そうして来年もまた佐渡に挑戦だ。(了)

佐渡国際トライアスロンBタイプ 
 Swim 40:00 バイク10k地点で事故、リタイヤ。

6 件のコメント:

ファイターズ さんのコメント...

ケガの方は大事に至らず良かったですね。
DNFでかなり落ち込んでいるではと心配してましたが、ブログを読んだかぎりでは大丈夫のようで安心しました。
私もマラソンやトライアスロンをやるようになって、ポジティブ思考が更に強くなったような気がします。
Cygunsさんの文章はとてもポジティブで、来年に向けた闘志がメラメラと伝わってきます。
来年の佐渡を楽しみに、お互いにまた1年間がんばりましょう。(^o^)/

Cyguns さんのコメント...

ファイターズさんへお返事です。
精神的な回復は早いかもしれませんがバイクイップスとかでたりして(笑)
まぁ凹んでますが、ファイターズさんの言う通りポジテイブ思考で次へ進みたいと思います。
ありがとうございます!

鉄女ママ さんのコメント...

何が起こるか分からないものですね。。。
DNFの一報を受けた時は驚きました
命あって何よりです
きっとシグナスさんはトライ&エラーを人より多く重ねて成長するタイプなんでしょうね
大丈夫、実力はものすごいし、大会もまた来年もあるし、バイク壊れたら新調するチャンスだし(笑)
健康でありさえすれば、何度でも挑戦できます
来年一緒にAに挑戦しましょうwww

Cyguns さんのコメント...

世界の鉄女ママさんへお返事です。
はいその通りです、と言いたくないけど当たってます。分析通りです。エラー多発な人生ですね〜。
とにかく今思うことはたった一つ。僕だけで良かったと。他の選手を巻き込んでいたらもっと落ち込んでいたと思います。
またラッキーだったのは、僕の身体と同じようにバイクも軽症で済んだと思います。これからメンテに出しますが、もう一年この相棒と一緒に闘っていこうと思ってます。
次の目標ですか?うーん…なんとも言い難いですね。
グッと来るコメントありがとうございます。
おっと、それからもう一つ。TKキャンプ、僕も行きたい!

ゆーサーモン さんのコメント...

大変な事故でした。
心中お察し申し上げます。
幸い怪我の具合が軽傷でよかったです。
来年の佐渡トラへの闘志がメラメラと燃え盛っている様子が窺えますが、今はゆっくり静養してくださいね。
何が原因だったのか、よく理解されていると思います。
決して今回の事故を忘れることなく、これを教訓として、これからも続くトライアスロンライフを長く楽しみましょう!
私も昨年はエイドでバイクごとスっ転んでますからw

Cyguns さんのコメント...

ゆーサーモンさんへんのお返事です。
ありがとうございます。おっしゃる通りですね。
とにかく単独の事故で良かったぁ、という想いが日に日に強まってます。またそれ以上に、もっと強くなってやろうという気持ちです。
手始めにバイクの教科書を読み漁りはじめました。
まるで読んでなかった訳ではありませんが、ランやスイムと比べれば練習のノウハウは圧倒的に
情報量が少ないことに気が付いたからです。
何かオススメがあれば是非教えてくださいネ。