2016年6月14日火曜日

第31回みなと酒田おしんトライアスロンのこと

 6/11前日の朝。
 この日は朝から陽射しが強く、日中は相当気温が上がりそうな気配がした。全くもって天気予報の通りだ。近年、この時期にグッと気温が上がることが多くなった。これからの暑さに慣れるのには、もってこいのなのだけれど、どちらかと言えばあまり歓迎したくない天候だ。
 6時半、バイクで家を出てあれこれ意識しながらペダルを漕ぐ。酒田のバイクコースをイメージしながらフラットな直線ではエアDHバーでスピードを測ったり、今更ながらサドルの高さや、ビンディングの位置を調節したりと、提出期日が明日のレポートを仕上げるような練習をした。

 バイクの後は玄関トランジションで少しだけラン。本番はズートのシューズをと決めていたのだが、ソールが柔らく着地の感触がなんだか物足りない。実はこの前日のブリックランでも同じように感じた。しかるにこの感覚を優先することにして、いつも使っているアシックスのターサージール2を本番で履くことにした。但しシューレースは結ばなくても良いものに交換。ちょっとでもトランジションの時間は短くしたい。直前で幾つかの変更をしたが吉と出るかは明日のお楽しみである。

 朝練の後は子供達と一緒に過ごした。久々のお父さん業である。街へ買い物に出かけたり、行きたかった甘味処を訪ねたりと、当て所なく気の向くままに行動を共にした。レースの前日は心が広くなり、普段よりこういう時間を楽しむことが出来ると思う。
 そして締めはプール。
 「今日は暑いから丁度いいじゃん」と言うと、お姉ちゃんがつかさず「明日の練習をするんでしょ?」と返してきた。「うん、もちろん。それも兼ねて」
 微妙な同意を元に僕らは近所の遊水館へ向かう。

 プールから帰宅すると荷物を車に積み込んだ。この競技のオプションの一つかもしれないが、トライアスロンは道具が多いから面倒である。現地調達できないものが幾つもあるので、リマインダーに入力したリストを見ながら入念に確認する。念のため出発直前にもう一度確認をしよう。なんせバイクのイベントでバイクシューズを忘れたりするうっかり者だからね。

 さて、話は一変するが僕はごくごく一部から「嵐を呼ぶ男」と呼ばれている。ひと昔前の映画のタイトルみたいでちょっとカッコいい。が、なんてことはない、僕がエントリーするレースがやたらと雨や風が吹くという、悪天候の少なくないことをからかわれているのだ。少し前までは何のひねりもない「雨男」と言われていただけに、こっちの方がまだマシだと思っている。
 そのちょっとカッコいいあだ名の発端となった大会の1つが、この「みなと酒田おしんトライアスロン」なのだ。僕にとって初めてトライアスロンに臨んだ大会でありながら、まだ3種目をさせてもらっていない。2年連続のデュアスロンなのである。ヘンテコなあだ名をつけられてイジられても仕様がないかもしれない。
 ちなみに何を隠そう、3種目の競技を行ったのは昨年の佐渡国際Bタイプが初めてだった。つまり3種目の51.5kmは未経験なのだ。今年こそはこのみなと酒田で!と願うばかりだ。
 2度あることは…とも言うが、この天気と当日の予報をみる限りでは、スイムの実施はほぼ間違いない。それに何よりも、3種目開催を実現しようとする主催側の強い意気込みが、スイム会場を移動させたことでも伺える。これでダメなら本当に僕の仕業ということにもなり兼ねない。
 明日はウエットを着用することを想いながらさっさと就寝した。


 6/12当日。AM3時半前に自宅を出る。村上市を通過する頃には夜が明けはじめた。例年同じような時間に移動しているのだけれど、今までこんなに明るかったかなぁ、なんて思いながら海岸線を眺めながら山形県酒田市の会場へ車を走らせた。
 この2年は曇っていたり雨が降っていたりで、晴れ渡る朝の移動ではなかった。海はきわめて穏やかで、岩礁で釣りを楽しむ姿がポツリポツリ見て取れる。


 会場に到着したのはAM5時半過ぎ。6時に受付を済ませ準備に取り掛かる。トランジションが2ヶ所あるのには戸惑ったがバイク→ランのトランジションを準備して、ついでスイム会場へスイム→バイクのセッティングを行う。概ね準備が整ったのはAM7時過ぎ。スイムアップの経路を確認したり、それとなく会場の人々を観察したり、はたまた日焼け止めを塗ったりして、いつも以上にリラックスしたレース直前のひと時を過ごすことが出来た。

 気温は既に27℃、水温は20℃近く。もちろん快晴。海から陸に向ってわずかな風を感じた。僕は会場の日陰に腰を下ろしてスイムチェックを待った。日向に立っているとそれだけで汗が滴る。陽射しが強い。とてもウエットを着る気になんてならない。これならウエットの上着は袖なしでも良かったかもしれないなと思い、長袖しか持ってこなかったことをちょっぴり後悔する。

 そうして遂に待望の時がやってきた。オリンピックディスタンス初の3種目。入水状態で第2ウェイブのスタートだ。第1ウェイブが浜から近いところで込み合っているのを見て、不要なバトルを避けるべく浜から離れ、少し深いところでスタートを待つ。
 On Your Mark、フォーンが鳴った。四方から飛沫(しぶき)が上がる。僕はワンテンポ遅れてスタートした。軽い興奮と焦りが先行してちょっとバタつく。海水はモスグリーン色で殆ど視界は通らない。ヘッドアップしオレンジのブイの位置を確認しながら冷静さを取り戻した。水を掻くごとに呼吸も楽になった。
 コース形状はほぼ直角三角形。防波堤とテトラポットで囲まれているので、外海の波の影響は皆無だった。他の競技者のプレッシャーを交わしさえすれば快適に泳ぐことができる。最初の1周はインをトレース。キックはほとんど使わずにプルで。バトルは佐渡に比べれば全然へっちゃらだった。

 1周目。最初のブイを通過すると、ブレスの度に酒田港おなじみの風力発電装置が聳え立ち、青い空に映えている。進むにつれてそれがゆっくり視界から外れていく。時折だれかの飛沫が空に舞う。水中は相変わらず視界が悪く、こまめにヘッドアップして進むべく方向を確認する。


 プルの手が底につくギリギリまで泳いだ。浜に上がり2周目に突入。想像ほど疲れはなく、こんな余裕もあった(写真参考)。出来るだけ自由に泳ぎたいので、敢えてコースの大外から入水し、他のスイマーのプレッシャーを交わし一つめのブイを目指した。それは悪い作戦ではなかったが、ブイ手前から途端バトルになった。そのままもつれ合いながら風力発電が見える直線へ。そこで僕のスイッチが入った。
 キャッチの手首の角度に注意を払い、しっかり最後までプッシュ。それから柔らかいキックを意識して推進力を高める。スッとバトルから抜け出すと、あとはペースを維持することに努めた。2ストロークで1ブレスを心掛ける。
 2つ目のブイを通過。浜へを目指してスパート。ここも水際ギリギリまでかく。立ち上がると同時にダッシュしようとするが、身体が重くよろけそうになる。砂浜を駆け上がろうとすると、柔らかい砂に脚を取られる。そう簡単に身体を自由にさせてはもらえない。設置された時計をみるとスイムアップは28分台だった。

 砂浜を小走りに、脚を取られないようにトランジションへ向かった。途中、エズいてしまい吐きそうになった。軽い波酔いと、少し海水を飲んだせいか。グッと我慢して自分のバイクへたどり着くが、むせて大きく咳き込んでしまう。用意していた真水で口をすすぎ、やや躊躇しながら勢いでアミノ酸ジェルを呑み込んだ。呼吸は落ち着いた。そこでつかさずをウエットを脱いだ。脱ぎながら佐渡トラのミスを想い出し、なぜか少し笑った。(詳しくは佐渡トラのブログ参照)足を水で濯ぎながら右、左と順にバイクシューズを履いた。ヘルメットを被る。バイクを押してトランジションを抜け出す。乗車ポイントへ向かう途中、さっきより陽射しが強くなっていることに気がついた。



 バイク開始。スピードに乗れない。サドルの位置が低く感じ、常用するギアが上手く踏めない。キックを頑張りすぎたかな。ギアを落としてクルクルとペダルを回す。最初の直線で数台に抜き去られてしまう。彼らとはまるでスピードが違った。さらに向かい風では30km/hを下回る。焦りと不安に苛まれる。落ち着こうと思い、おもむろにベントボックスに入れていたカロリーメイトを口にした。しかし、これも思い通りにはならず簡単には喉を通ってくれない。無理矢理ボトルで流し込む。トランジションから続く不快感が少し薄らぐ。ペダルをクルクルまわしながら、今、自分が出来ることをしっかりやればいいのだよと口にしてみた。もちろん自分に言い聞かせる為に。

 このコースはこれで3度目。形状は概ね判っていた。あとは風の具合を考慮してギアを使い分ければいいのだ。
 2周目の往路。クランクするコースを抜けほぼ直角に右折すると折り返しまで直線が続くところ。ここは毎年向い風なのだけれど、今年も違わずそうだった。まぁ去年よりも風は弱かったかも。いつもなら頑張りきれず30km/hを割ってしまうのだけれど今年は違う。
 サドルに座る位置をやや前にして身体を起こし、いつでも両手が挙げられるイメージでハンドルに手を掛けケイデンスをキープ。上手くいった。ふっと左側を見ると一羽のかもめが同じ方向をほぼ同じスピードで並んで進んでいた。どこまで一緒なのだろうと思ったところで、彼はこちらを察したのか、海の方へ折れていった。それは、ほんの一瞬の出来事だったかもしれないけれど、気持ちが通じ合ったような気がした。僕は今、バイクにこそ乗っているけれどカモメと何ら変わらない。
 減速、折り返し。つかさずダンシングで加速。重いギアを入れ、追い風を利用した。この辺りからバイクの調子は一変したと思う。

 3周目残り4km。いつもより頑張ったせいで腰と背中に疲れを感じ始める。軽いギアでケイデンスをキープした。やっぱりバイクはまだまだ弱い。クルクル回しながら次のランの為に補給を取った。
 メイン会場に近づいたところでスピードを落とし呼吸を整える。僕はバイクシューズのマジックテープを外しに掛かった。
 降車してトランジションに入る。すんなりとトランジションに辿り着き、バイクをラックに掛けてランの支度を始めた。するとマーシャルが近づいてきてバイクの向きが反対だという指摘を受ける。すぐにバイクを掛け直しマーシャルを見た。彼は頷いて立ち去っていった。同時に場内アナウンスでもバイクの向きを同じにするようにとの注意事項が流れた。

 シューズを履くのには少し手間取ったけれど、トランジションを駆け出してすぐ、この相棒を選んで良かったと感じた。いつだってレースはこれで走っていて、全幅の信頼を置いているのだからなじんでいるのに決まっているのだ。一番大事なことを忘れていた。

 走り始めこそフワフワしたが、入りの1kmは4分40秒台。いけると思いながらも気持ちとは裏腹に呼吸が苦しいランの途端に容赦のない陽射とアスファルトから照り返す熱を受ける。僕は給水の毎にスポンジをもらい身体を冷やした。1周3.5kmの間に3ヶ所もの給水があるのが本当にありがたかった。


 1周目はとにかく辛かった。それは走るのを止めたくなるぐらいに。フォームもぎこちなく踵着地気味なのも走っていて分かった。2km通過はペースキープできたが、少しづつペースは落ちていった。少し息を入れる。モードが切り替わるまでの我慢。呼吸の苦しさも、走りのフォームも楽になるのを待った。
 2周目の折り返しから漸く脚が出始めた。決して楽ではなかったが随分気持ちが軽くなった。期待していたランだけにもっとしっかり走りたかった。この後半、着地や左右のタメの動きなど普段のイメージに近い走りになり、5分を少し切る位のペースで安定した。

そうしてゴール手前。実力者のATさん(年代3位!)、Kさん(年代優勝!!)から声援を受けつつハイタッチ!
 僕の3度目にして初のオリンピックディスタンスのゴールだった。


 尊敬する山形のトライアスリートに習い、僕も笑顔で競技を続けようと思っていた。写真を見る限りその目標は達成されていたようだ。FBに載せた写真を見た、これまた敬愛する大兄がそれに触れコメントを寄せていただいた。今回一番嬉しかったこと、それは各シーンを笑顔で競技できていたことに尽きる。実際はそれほど意識はしてなかったけれど、ごく自然に笑顔になっていたのかもしれない。

 トライアスロンは真剣に取り組む程楽しくなる。自然の中で自分に向き合い、己を制御し、客観的に知ることができる競技の1つだと考える。
  この大会を通じ関わったすべてのみなさん、ありがとう!また来年お会いしましょう。もちろん3種目でね!(了)


 スイム28:52 バイク1:18:40 ラン50:31 タイム2:38:03 (総合 93/266 年代別 11/24)

2 件のコメント:

鉄女ママ さんのコメント...

お疲れ様でした!!
スイム30分余裕で切りましたね~
すごい~
決戦の9/4までランとスイムのドリル練よろしくお願いしますね~w

Cyguns さんのコメント...

鉄女ママさんへのお返事です。
初のショート3種目でした。楽しかったですよ〜。
酒田でやれてなんかスッキリしました。
練習やりましょうね!