2016年4月21日木曜日

佐渡トキマラソン 2016.4.17

 僕にとって12度目となるフルマラソン、そしてスコットカップの第1戦目だ。あわよくば自己ベストをという気持ちはあるが、今のコンディションを考慮するとハードルが高い。然るにここは3時間半を走破タイムの目安にしつつ、アランゼミで学んだ走法やフォームを実践し、次走の足掛かりにすることが好ましいように思えた。何はともあれスコットカップの条件をクリアせねば。



 天候は雨、そこそこの雨脚だった。これからフルマラソンに臨もうとする僕らには少々酷だ。強い低気圧が接近しており、大会内容の変更も検討されたが予定通り行なわれることになった。

 待機場の鬼太鼓ドームでTakaさん、ファイターズさん、スピリットZさん、H間さん、鉄女ママさんらと手を合わせ「ファイト、オー!」と気合を入れつつ、スタート5分前にゲートに整列。雨粒が少しづつ体温とモチベーションを削っていくようだ。一刻も早く走り出したい気持ちと、反面、この状況でうまく力を発揮できるのか不安に苛まれる。号砲が鳴れば否が応でも全てを受け入れて、ひたすらゴールを目指すだけなのだと、気持ちを集中した。

 午前10時、定刻スタート。始まりだ。僕らはゲートから吐き出されるようにしてランナーの間を縫う。入りの1kは4分40秒台。予定よりちょっとオーバー。自らの手綱を引くようにして次の2kは4分50秒台を狙う。

 間もなくして雨脚は弱まり、雲間からは青空が覗き始めた。さっきまでとは打って変わって、穏やかな晴れ間が現れ、すっかり走りやすくなる。陽射しが感じられてなんだか気持ちが広くなる。せっかく佐渡に上陸したのだから、そうこなくっちゃね。
  ラップは狙い通り。4k過ぎの上りでペースが落ちたが焦らずに進んだ。先は長い。しっかりとした脚取りで坂の頂点を目指す。5k通過は無難に24分台。股関節にタメを作ることを意識しながら脚を左右の重心の真下に落とす。これまでとは異なる走り方だったが上手くできていた。

 10k通過は49分を少し切るぐらい。少し風が出てきた。コースを走る僕らの左から吹く風だった。時間の経過と共に強さが増して14k辺り、国仲バイパスに出る頃には叩きつけるような風に変わった。クッキリと稜線を浮かべた金北山を右に、僕らは左から来る強い風に半ばもたれかかるようにしてコースを進む。不意に前を走るランナーの帽子が風に飛ばされる。それを見て僕は尽かさずサンバイザーのツバを下げる。ここからが風との戦いの幕開けだった。気力と体力の消耗を考え糖質補給を行う。いつもより少しだけ早い。15k通過の時計は73分、悪くないペースだった。

 風に突かれながらバイパスを左に折れると、抗いようのない向かい風になった。深い前傾で自重を利用して前を掻き分けるように進んだ。風と喧嘩しちゃいけない。アスファルトを見つめながらこのフレーズを何度も繰り返した。風に押し返され、動作が緩慢になる。キロ辺り30秒ほどペースが落ちる。いや、もっとかな。風は執拗だった。

  気持ちが折れてしまいそうになったが、不思議と闘志が湧いた。実際、ここまで風を受けて走るのは初めてで、佐渡トキマラソンのオプションの一つならば、もうこれは楽しむしかないと腹を括った。むしろ、絶好の環境で走ることの方が少ないのだよとも思った。この風が以降ずっと付きまとうなんて思いも寄らなかったから、そんな悠長なことを思えたのかもしれない。
 折り返しに近づくと、先を行く仲間たちと次々にすれ違う。皆、風と闘っていた。僕らの共通の敵は風だ。絶対に挫けるわけにはいかない。

 折り返し以降も風にもみくちゃにされる。けれどバイパスに戻れば、追い風のご褒美があることが分かっているので耐え忍ぶことができた。
 そして想定どおり、追い風の区間はそれはもうびっくりするほど楽に進んだ。背中を風に預け押されるままで良かった。脚の力を抜いて少し休むことさえ出来た。ここはキロラップで4分40秒台。向かい風でロスした分を相殺するほどではなかったが充分な恩恵だった。

 バイパスを右折すると、ふたたび横から来る風に対応しなければならなかった。胸のゼッケンがバタバタと暴れ、今にも吹き飛ばされそうになる。コースの傍ではエイドのテントが風で煽られて、スタッフが総掛かりで抑えているのが見える。この風はエイドをも吹き飛ばしてしまうのか。
 横殴りの風のせいでゼッケンを留めたのピンが片方外れてしまう。ゼッケンとIDチップを右手で抑えながら走った。風の勢いは増すばかりだった。地面を蹴った左足が風に吹かれて右足にぶつかる。風で歩様が乱れるなんて今まで経験したことはなかった。

 28k付近、再び追い風の恩恵を受けているところで、急に脚が重くなったように感じる。つかさずアミノ酸を補給。この少し前に糖質補給を摂っていたことが幸いしたのか、致命症には至らず程なく回復した。じわじわと疲労が広がっているのだろう。視線をアスファルトに落とし、無駄な力を使わぬように走り続ける。

 30k通過は2時間31分台。予定から遅れている。それでもいつものように、さぁここからがマラソンの始まり、そう思いながら気を引き締める。
 コースはゆるい上りになる。ラップ5分を切れなくなってきた。股関節にタメを作り、左右の重心の真下に脚を落とす。それをひたすらこなした。ここが踏ん張りどころだった。コースが下りになる35k以降ペースを上げようと決めていたので、まずそこまでは慎重に進もうと考えていた。走法のお陰で四頭筋に疲労は感じられなかった。ところどころで回転(ピッチ)を上げたり、着地速度を速めてみたりと、ゼミで学んだことを試しながら進む。周囲の状況があまり気にならなくなり、なにか一人で考えごとをしているような状態で走り続けた。

 35k地点、ここから下りになる。走法を遵守して、コース形状を利用しながらペースを上げた。目標には少し届かない状況だったがネガティブ走は譲れない。

 37k辺りから雲行きが怪しくなり、急に辺りが暗くなる。スタートした頃のような空模様だ。嫌な予感がした。ビニールポンチョを捨てたことも後悔した。まもなく強烈な雨が僕らを襲い、それはまるで嵐のようだった。何度となく猛烈な風雨を受ける。その度にゼッケンが飛ばされぬよう抑える。当然、容赦なく体温を奪われる。これが10K手前だったら流石に心が折れていたかもしれない

  38kを通過したところで、対向車線から大会を中止するというアナウンスを流す車両とすれ違う。一瞬、耳を疑ったがここまでくればどうであれゴールに飛び込むだけだ、迷いはなかった。眼前のランナーの背中を追いかけながらしっかりと脚を回した。

 両津の街並みに入り、信号機のある交差点で誘導をうけながらフィニッシュゲートの見える直線に出た。ラスト。解体されつつあるゲートの光景が目に飛び込んできた。それは一抹の寂しさを感じずにはいられない光景だった。ついさっきまであったであろうフィニッシュゲートを目指し、一秒でも早くゴールしようと懸命に駆けた。
 ネットで3時間32分53秒。スコットカップ1戦目を無事に終えとたことでホッとした。長くて短いマラソンだった。

 この後、新潟へ向かうフェリーが全便欠航して佐渡に一泊すること余儀なくされ、ついでに翌日は始発のフェリーで佐渡から会社に出勤する破目となった。このブログのサブタイトルとは言いがたいが、そんな状況を仲間たちと思う存分に楽しむことができた。
 同行したみんな、それから、佐渡トキマラソンに関わったすべての方々、そして快く宿泊させてくれた民宿のおばちゃん逹、更には着替えを持って佐渡汽船乗り場へ迎えに現れたウチの奥さん、みんなのお陰で僕はこうしていられるのだということを、強く、強く感じました。
 次の渡航はスコットカップ第2戦目の佐渡ロングライド。頼むぜ、佐渡!よろしく、みんな!(了)

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