2015年9月10日木曜日

第27回佐渡国際トライアスロンBタイプ スイム編

 スタート30秒前。大きく息を吸って胸の高鳴りを抑えた。砂浜のある一点を見つめ集中する。
一瞬の静寂。そして、ファーンが鳴り響いた。ウエットスーツを纏った青いキャップの大群が拍手をしながら、あるいは歓声を上げながら、一斉に海へ向かって走り出す。ぼくは歩いて海に入る。そしてジャブジャブと海水をかき分けるようにしばらく歩く。
 心を決め海中に飛び込んだ。そこからが熾烈なスイムの幕開けだった。
 四方八方から責め立てられる。押し合いへし合いながら水をかく。ストリームラインが取れない。搔き手を出すスペースが遮られる。ヘッドアップしてスペースを探したけれど、どこもかしこも青いキャップで埋め尽くされている。8月のOWSとまるで比較にならない状態だった。
 位置取りを間違ったか。
 今更悔やんでも仕方ない。ならばインコース、と気持ちを強くする。ブレスのたびに否応なく飛沫を浴び海水が口に入る。塩辛い。進行方向には激しくキックを打つ脚が泡を立てている。行く手を遮られれば、こちらは間隙を見つけ、尽かさずそこへ身体を滑り込ませる。ブレスのタイミングで身体を押され浮上を我慢する。そんな遣り取りが続く。
 ぼくだけじゃない。みな必死だ。そう言い聞かせながら活路を探し続けた。ヘッドアップの度に、海にポカンと浮かんだ黄色い第1ブイが視界に入ってくる。それはだんだんと大きくなって来ていた。

 なんとなくバラけたような気がしたのは第1ブイに近づいてからのことだった。もう同じ轍は踏まない。ブイをカーブするとき内から外へ向かった。海水の流れが変わり、身体が反り返る。夏のOWSの時はこの辺りでハムが痙攣したっけ。慎重に動こう。ロス覚悟で外目に向かい、やっと自分のスペースを取ることができた。気持ちがスッと落ち着いた。
 次の第2ブイまでは150m、コースは鋭角な三角形を描いている。ブレスの際、空を見上げると雲の切れ間から僅かに太陽が見えた。

 第2ブイは外から内に切れ込んで、そのまま外へ向かって水路を確保した。
1人で大外をトレースしているのかな。外れすぎてないかな。数回ヘッドアップしながら周囲を伺う。左手にはカヤックに乗った黄色セイバーが見え、インコース側とアウトのこちら側を認識する。あちらには大勢のスイマーが塊になって見える。大丈夫。群れから少し離れた距離で泳いでいる。波の向こう側に霞がかった岸が見えた。

 落ち着いて泳ぐことができた。前日、車中でスイムについておしゃべりしていたKさんとの会話を想い出す。ボートがスーッと進むイメージ。腕をまっすぐ、下腹に力を入れ、両足の親指を揃える。オールを漕ぐ船がスーッと進む様を想像する。ひとかきを大きくかくというより、ストレッチタイムを長めに取り、水に逆らわないようにする。

 海面付近は陽の光が溶けて明るく、ぼくより下にある海水は群青色を帯びて暗い。そんなコントラストのはっきりした風景に前を泳ぐスイマーの姿は溶け込んでいるようだった。まるで競技写真のワンカットみたいでカッコいい。そう、ぼくも今こうして泳いでいるんだ。ずっと先のゴールを目指して。
 ブレスごとに空を見上げた。灰色の薄曇りの空に、さっきより太陽が大きく覗いていた。真夏のOWSの青空がとても懐かしい気がして、またこの海を泳いでいるんだ、と改めて思った。

 外から内へ向かった。内側のオレンジ色の小さなブイが目標だ。時々、誰かと交錯する。ペースを変えながらそれらを交わした。
 岸がゆっくり近づいて来る。ヘッドアップは上手い方ではなかったけれど、バトルを経験したことで効率良く前方確認ができるようになっていた。あともう少しだ。
 海水の色が薄まって、ついに海底がわかるようになった。ぼくはギリギリまで泳ぐつもりでいた。すでに歩いている選手がいる。その横を泳いで通る。まだまだ。歩くより泳いだ方が速い。かき手が底に当たりそうなところで、ようやく立ち上がる。膝下ににまとわりついた海水をかき分ける。砂浜を蹴って、コンクリートの階段をよろめきながら小走りに進んだ。登りきった所に緑の絨毯が見える。
 あそこを早く通過しなきゃ。ぼくは走りながらスイムキャップを外し、ウエットの上着を脱いだ。
(次回、バイク編へ続く)

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