2018年6月12日火曜日

佐渡輪行 2108.6

 週末、CADD10と共に海を渡った。
 目的地は佐渡、河原田。言わずと知れた佐渡トライアスロンの会場である。両津から小佐渡をトレースして目的地へ向かう。

 両津港の空は鉛色。港まで出迎えてくれたN藤氏に荷物を託し早々に出発する。バイクで走るのには少し肌寒く、雨の心配をした方が良いような天候だ。台風5号の接近に伴う影響だろうか。

 佐渡一周線を進む予定だったが、一部区間が全面通行止めということで、工事看板を横目で確認しながら迂回路へ。山間部へ向かう道にはいやな雰囲気が漂っていたが、予感は的中、のっけからのヒルクライムとなった。
 顎から汗が滴り落ち、途切れない登坂に心が折れそうになる。ここを通過せねば目的地にはたどり着けない。受けて立つしかない。未知のコースというのは予測がつかないので精神的に良くない。

 鬱蒼とした新緑に覆われた、起伏激しい山道を孤独に走り抜け、ようやく視界に海を捉える。眼下の斜面には田植えの終わった棚田が広がり、山間(やまあい)から覗く海へと続くロケーションは昨年秋に訪れた岩首地区を彷彿とさせた。


 つづれ織りの道を一瀉千里、再び佐渡一周線に到達する。降ってきたのは赤玉地区というらしい。両津からそう遠くない場所にタフなクライムコースがあることを知った。
 道路の修繕工事がこのまま終わらなければ、もしかするとコースに採用される可能性があるかもしれない。トレーニングを兼ねてまた訪れようかと考えるが、坂嫌いとしてはいかんともしがたいところあった。

 岩首から岩崎、多田、赤泊と走り慣れた道をDHポジションで駆け抜ける。小木に着く頃には雲の切れ間から陽が射してあたりが明るくなった。この日の予報通りだと思った。
 350号線、アスファルトがグリーンに塗られた交差点を越え、この日2度目の登坂、小木の坂へ突入する。
 あっという間に失速。スピードがまるで伴わない。こんなはずじゃないとイメージとのギャップに落胆しながら軽いギアでクルクルとペダルを回す。前半戦の消耗は否めないが、坂の実践不足を感じつつ、インドア練の追い込みが足らないことを反省をした。

 諦観と惰性で350号線を北上し、西三川の坂を超えると眼前には真野湾が広がった。アゲインストの風が強まりペダルを回す脚が重くなる。目指す方向には頭ひとつ飛び出た八幡館が見える。そこを目指すようにして黙々と進む。

 河原田に入る。商店街の突き当たりに鳥居が見える。バイクフィニッシュさながら、佐渡トラでは誰もが名前を呼ばれる十字路で過去のいくつかのシーンを思い起こす。
 心が波立ち、ざわついた。えも言われぬ感覚に心が奮い立った。
 これが欲しかったんだ。
 この瞬間(とき)、ここを目指した理由がはっきりと判った。それがなんであるか言葉にするのはむずかしいけれど、僕の人生でそれを思わせる場所はここしか思いあたらない。

 バイクトランジションの駐車スペース、フェンスで仕切られた河原田小学校のグランド、砂浜のスイムエリア・・・。
 誰もいないその場所で、僕はかつての風景を垣間見た。レース当日、静謐の中の喧騒、緊張感、そして興奮。


 この日、こうしてここにやって来ることで何か確固たるモノを得るわけでも、揺るがない自信がつくワケでもない。ただ、今、僕が何を感じるかを試したかった。
 僕にはこの夏の終わり、またにここにやって来る権利がある。息子も一緒に。その時まで、やるべきことはしっかりやろう。叶うことなら昨年の自分の背中を追い抜けるように…。(了) 

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