2024年9月9日月曜日

2024.9佐渡トライアスロンBタイプのこと(後編)

 9/1(日)レース当日
 スイムチェックを通過する。浜に下りてウェットを着用、さっそく泳いだ。生温い海水を覚悟していたが思ったほどではない。雲が空に広がって陽射しを遮っているからだろうか。それに大勢の選手が泳いでいるのに関わらず水は濁っておらず、波もほとんどない。穏やかなスイム会場だった。その佐和田海水浴場の例の桟橋から、沖へ50mほど泳いでスイムアップ周辺の目印を確認する。鉄塔、養生シートに覆われた仮設テントなど目星をつけ、少し大袈裟なグライドを取りながら浜へ戻った。

 スタート地点に移動する。続々とAタイプの選手が海から上がってくる中、Fさんを見つけ声援を送った。きっと気づいていないだろう。しかし偶然とは良く言ったもので、宿の相部屋のAさんがこのFさんと一緒にトレーニングをする環境におられ、話題の花が咲いたのだった。
 スイムアップ予定時間のプラカードを確認して浜辺に腰を下ろした。すると、気持ちが悪くなり、えずいて嘔吐してしまった。決意は固まっているが身体が追いついていないのか。それほど緊張や不安に苛まれているのか。ゆっくり息を吸って深く息を吐いた。落ち着こう。何度も繰り返した。繰り返すたびに吐く息は長く深く、周囲の声が遠のいていく。自身の息遣いの音量が大きくなり、心臓の鼓動が身体を震わしているのがわかった。ほんの数分、ぼくはぼくの中の音楽に耳を傾ける。

 スタート1分前。座を解き、立ち上がる。カウントダウンからの号砲。定刻7:30分、Bタイプのスタートの幕が切って落とされた。前方の選手らが一斉に走り出し、水しぶきを上げる。
 ぼくは腿のあたりに水がくる頃、海に潜り込む。浅瀬の景色が広がる。さぁいこう。大きくゆっくり水をかく。何度目かで周囲がそれを許さなくなる。バトルのスタート。左右に挟まれ接触する。下半身を押される。なかなか上手く逃げ出せない。そんな最中、顎の辺りに一瞬電気がはしるというか鋭利な刃物でスパッと切りつけられるような痛みを感じた。クラゲだ。何度か経験しているので泳ぎを止めるほどでははないが、さらに冷静ではいられなくなる。今回のスイムは、沖のコーナーブイあたりまで接触が続き、かなりイライラしながら泳いでしまった。
 いいところのないスイムだった。サイドドラフティングやチェンジペースなどまったく上手く行かなかった。経験だけでなんとかなるものではなく、やはり練習が必要なのだ。省みるほどにそんな考えが強くなる。
 スイムアップ目前。ぼくは掻けるギリギリのところまで泳いだ。流石にもう限界か、というところで立ち上がり、すぐに左の時計を確認すると38分の数字が目に入る。思ったほど時計ロスしていないかったのでホッとする。
 トランジションまで息を整え、装備を外しながらの小走りだ。水の浮力から開放された途端、いつもの重力が戻ってくる。途中、Iさんの奥方から声援をもらい気持ちが上がった。
(スイム 37分45秒)

 バイク乗車ラインあたりで手こずってしまう。気持ちよくバイクスタートを切れなかった。内容は割愛するが、状況によっては事故につながりかねない内容なので十分に気をつけねばならない。
 佐和田の街を通過、国仲バイパス、新穂、そして両津。この区間のテーマは補給だ。手間取ることなく予定通りしっかり補給を入れる。
 3本携行するバイクボトルになんらかの補給材を詰めていたが、今回はうち1本を容量大きめのボトルを用意して水を詰めた。宮古島の経験から、暑さ対策として掛け水を準備したのだ。
 走り出したときは雲があり気温はあまり気にならなかったが、水を浴びて涼を感じながらペダルを漕げたのはとても良かった。気温次第だがこの準備は大正解だった。
 佐和田から両津までは、昨年ほどではなかったが向かい風を受ける場所がいくつかあり、目標とする平均速度30km/hで駆けることができた。

 両津港をかすめて佐渡一周線に出る。水津S.A到達を目安にしていた。風に押されて楽にペダルが踏めた。住吉で汗をかき、いくつかの起伏を越えると更に追い風の恩恵を感じた。そして予報通りに雲がかった空は青さを取り戻し陽射しを増した。エイドの掛け水が俄然楽しみになった。

 水津S.Aでバイクボトルを入替える。飲料よりも掛け水が有り難かった。次は小木S.Wが目標になる。風の恩恵は続く。Ave.40km以上で進むこともしばしば。岩首から多田、赤泊、羽茂。面白いほどにペダルが踏めた。

 小木の坂。小木S.Aでしっかり補給準備を整える、焦らずに登坂をこなす。ピークに向う途中、首と背中に強い陽差しを受ける。坂の両側から声援がきこえる。一息つけるところでは掛水。オーバーヒートしないよう頑張りすぎてはいけない。ところどころ声援が耳に入るが、返す余裕はない。しかし、とても励みになる。そうこうしている間に、いつも目安にしているポイントに到達した。難所は超えた。
 W.Sに立ち寄って水を補給。かなり良い場所にありとても助かった。
 西三川あたりからやや向かい風を感じる。中々手ごわい風だった。はっきりと思えて覚えていないがバイクアップまで残りは10km。11時40分ぐらいには走り出せそうな見積もりだった。
 今回のバイクパートでは収穫があった。開き直りがそうさせたのだが、機材を上手に使えた。端的には、下り坂ではほとんど漕がなかった。ただしピークから下りだしは頑張った。加速が必要だと思ったからだ。そこに重点を置いて、下りは脚を休ませるイメージを貫いた。
 ぼくが自転車を乗り始めた頃、上級者のある言葉がぼくの中で消化できずに、今日まで至ったのだが、この大会でその呪縛から解き放たれた。もう2度と坂の下でペダルを踏まないというわけではないが、そういうことも含めてマネジメントする必要性を認識きできた。頑張り抜いて手にする気付きは貴重だが、楽をすることでも思いがけない発見もあるのだ。
(バイク3時間30分20秒、T2含む)

 バイクラックにバイクをかけた頃、Iさんの奥方から声を掛けられる。知り合いの声援というのはは本当に力になる。彼女に、いってきます!と手を振って、実はものすごく強がってみせながら、ランへむかった。
 1周目。最初のA.Sで掛け水と氷をもらう。今回も氷があれば多分なんとかなる、そう思いながら脚を前に出す。自ら滲みでる、いまできうるペースを刻んだ。焦るだけなので、まったく時計はみなかった。
 A.Sで給水(スポドリ)し、袋入りの砕かれた氷を貰う。佐和田から沢根にいたる大きく湾曲する海岸線を進む。折り返しの向こうには岬の稜線が青空に浮かび上がっている。
 ゆっくりでもよいので、まずは序盤で呼吸を整え、走れる脚を取り戻した。折り返しからは余裕があったので、厚底シューズ特性を生かすステップを心掛けた。
 海岸線から街中、そして河原田商店街のコースをトレースして再び海岸線へ戻る。

 2周目。宮古島行きでお世話になったTさんが、T.O姿でいらして声をかけたが,きっとぼくだとは気づいていないようだった。
 折り返しは先に見えるドーム状の黄色が目印だった。あそこまで行けば、あとは…。
 気温はさらに上がっているようだが、今年は昨年ほど気にならなかった。
 2年前の夏、そしてこの春の宮古島DNF。全て暑さで、熱にやられた。そういう苦い経験からさらに対策していたが、A.S皆さんの応対、沿道からの掛け水、そして海の風。それらがぼくの身体から熱を取り除き、背中を押した。

 終盤。常宿のせがれさんから大量の水を掛けてもらう。思いがけず知り合いからも声援を貰う。商店街を抜け、河原田のグランドへ。
 大きく左に折れて、茶色の土を蹴りながらサングラスとキャップを外した。6時間12分。ぼくは今年もフィニッシュテープを切り、全てから解き放たれた。
(ラン2時間38秒)
 

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