2015年7月17日金曜日

佐渡輪行 2015夏

 4月のトキマラソン以来の佐渡。目的はトライアスロンBタイプのバイクコースの試走だ。


  両津のフェリー乗り場でガイド役を買って頂いたTさんと合流する。Tさんとはトキマラソンの会場でお会いして以来、行動を共にするのは今回が初めてだ。よろしくお願いしますと挨拶をしながら、ぼくはさっそく輪行バッグを開く。
 
 ぼくらは両津から小木方面へ向かってバイクを走らせる。空には少し厚みのある雲が広がり風があった。向かい風だ。それらは歓迎しかねるけれど気温を和らげるのに一役買っていると思い我慢をする。
 Tさんの後ろについてペダルをクルクル回す。Tさんは地名やコースの特徴、それからエイドの位置なんかのことを話してくれた。熱心な説明にぼくは耳を傾けるけれど風がそれを邪魔をする。時折、彼の声が風の中に消えた。
 
  海岸地形をトレースする。小高い上り坂があればそれに見合った下りがあった。アップダウンを繰り返す。上りで緩んだスピードは下りで挽回する。小さな港が現れては消え、また次の港が現れる。ペダルに意識を集中する。そうしているうちにいつの間にか雲が消え、青い空が覗いていた。眼前には群青色の海が広がっている。

 走り始めて1時間ほど、岩首(いわくび)で小休止。早速自販機でコーラを買った。慌ただしく両津港から出発したので、Tさんとろくに話もしていなかった。他愛のない話題で少し話し込んでから出発した。

 

 松ヶ崎で水を補充。この頃には空は晴れ渡り、熱を含んだ陽射しが降り注いだ。断崖を彩る緑の雑木林が遠くの方まで伸びている。ぼくらは隊列を組んで風を切った。車の交通はほんの僅かで、二人で道路を占有している気分になった。
 
 赤泊で小休止。Tさんの提案で北雪酒造さんにお邪魔する。低温管理された木の香漂う陳列庫に案内される。目にしたことのない銘柄がいくつもあって思わずゴクリと喉を鳴らす。
 天井の低い少し薄暗い木造の母屋には、北雪ブランドを愛飲する著名人の写真と共に、様々な商品の案内がよく整理された状態で展示されている。そして太い柱には骨董クラスの背の高い掛け時計があって、気が付けばTさんはお酒よりもそちらを食い入るように見つめていた。

 小木までもうすぐだった。ペダルを回しながらお喋りをする。Tさんがふと、自転車を漕いでいると何を悩んでいたのか忘れてしまうことがある、と言った。同感だ。一所懸命に身体を動かして、ハァハァゼイゼイやっているうちに雑念が散霧する。不要な部分は取り除かれ、先ほどの北雪酒造さんの大吟醸酒ではないけれど、玄米を削りに削った35%の米粒のような問題の核心だけが手許には残ることがある。ぼくらはバイクを漕いだり走ったりして余計な雑念を削ぎ落とすことで日常とのバランスを保っているのかもしれない。
 小木港に到着する。両津港からおおよそ60kmの距離だ。
 
 昼食をとって出発。いわゆる小木の坂は港からすぐの路地で繋がっていた。国道350号線、それはフェリーの海路によって本土と繋がる国道だ。結構な急勾配に見えそこを上ろうとする者は何かしらの覚悟が必要だと感じる。大会当日はこの路地近辺に人が集まって選手たちに声援を送るのだと、Tさんは言った。そしてぼくらは互いに頷きあって坂に向かった。
 
 小木の坂を堪能する。入りは急だけれどピークを過ぎれば傾斜は緩やかになる。ただし本番を想定すると80kmすぎのこのシチュエーションは間違いなく気が萎えてしまうだろう。しばらくの間ダラダラとアップダウンが続く。それから小木までの交通事情とは異なり、国道らしく車の往来が頻繁に増えたように感じた。

 
 

 アストロマンのスピリットZさんから、小木の坂の終わりに50km/hを越えるの下りがある旨をLINEでいただいていた。思った以上に時間がかったけれどそこに到達する。ぼくは下りながら、ベテランは小木からここまでをひと区間としてみているのかぁ、なんだか感心してしまった。その50km/h坂は海の方へと延びている。

 
 海岸線に出ると一気に視界が開けた。左手に広がる海は打って変わって、まるで昔の東映映画のオープンニングのような荒波が立っている。先を行くTさんの姿が見つけられない。ぼくは追いつこうと必死でペダルを漕いだ。見た目にインパクトのある潮掛鼻の坂の頂上でぼくを待つTさんを発見。そこからすぐ先にある自販機で休憩を取ることにした。
 2人並んでコーラを飲んだ。夏の陽射しと得も言えぬ爽快感があいまってか、お互いの顔を見て腹の奥底から笑いあった。子供の頃の夏休みを思い出すねと、Tさんは言った。


  真野のスタート地点に到着する。薄曇りの空の下、海は白波が立っていた。ぼくらはほんの少しだけ会場となる場所を散策する。どこかにその熱い夏の記憶が刻まれているのかを確かめるように。唯一、目に留まったものと言えばトライアスリートの写真でラッピングされた自販機が佇むように設置されていたことぐらいだった。
  ぼくらがバイクにまたがり発車しようとタイミングを見計らっていると、期せずして両方向の車が停車してくれた。ありがとうございますと頭を下げる。島民の粋な計らいというよりも、この場所についての共通認識が存在することを知らされた思いがした。

 国道を外れて一路両津港を目指す。国仲平野を抜けて日吉神社の交差点に出る。そこは見覚えのあるトキマラソンのコースだった。この時点で走行距離は100kmを超える。
 ペダルを踏みながらマラソンの記憶を呼び起こし、目の前の道に重ね合わせる。印象に残る建物や風景をバイクから改めて眺め、来春再びここを走ることを想像する。
 フルマラソン、OWSそしてトライアスロン。今年は随分とお世話になる。こうして佐渡との関わりが生まれていく。高い確率でリピートすることに違いない。あとはどこまで手を伸ばすかだろう。

 あっという間に時間は過ぎるものだ。次はOWSですねとTさんと握手しながら近い再会を約束する。
 走行距離111km、Ave.24km。乗車時間4時間40分。心の底から楽しいと思えた、の佐渡輪行だった。じゃぁ、またね! (了)






 

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