2015年9月11日金曜日

第27回佐渡国際トライアスロンBタイプ バイク編

(スイム編からの続き)
 公道に設置された架設シャワーの下を小走りにくぐり抜けながら、顔を上げて口をゆすぐ。一瞬で口の中の塩辛さが消える。生き返る思いがした。シャワーを浴びる選手を横目に、ぼくはトランジションを急ぐ。
 ぼくのトランジションエリアはランとバイクコースが分岐するすぐ横、招待選手の脇に位置している。幸いなことに他の選手の姿は見えなかった。手に持ったスイム道具をカゴに入れ、クエン酸のパウチジェルを喉に流し込みながら、楽々とスペースを使って着替えた。
 チーム潟鉄のバイクジャージを纏い、ついで脚についた砂をタオルで払いながらバイクシューズを履く。グローブ、ヘルメット、そしてサングラスを装着する。
 ラックからバイクを外そうと…あれ?下半身がごわつくぞ。なんとウエットを履いたまま着替えていたのだった。
 やっちまったぁ〜、と思うと同時に、いいネタができたとちょっぴり喜んだ。我ながら間抜けな格好だった筈だ。
 気を取り直して着替え直す。バイクをラックから外そうとしてまた気付く。今度はバイクにぶら下がっているゼッケンベルトと心拍計を装着し忘れていた。ゼッケンは良しとしても、心拍計は面倒くさくなりジャージの上からベルトを掛けた。これでようやく準備完了。スイムからバイクのトランジットはこれが初めてなので良い経験となった。次回はちゃんとしなきゃ。乗車ポイントまで進みバイクに跨った。

 手始めに軽めのギアでペダルをクルクル回す。会場の喧騒から少し離れると、辺りには日曜の朝の静寂が感じられた。ただ、おそらくいつもの日曜と異なるのは、海辺から吐き出される無数のバイクと、それらに無償の声援を送ろうとする人々が沿道にいることだろう。
 灰色の空の下、佐和田の街を抜け、一路、両津を目指した。
 ぼくは頻繁にサイコンに目をやりながらオーバーペースにならないように気をつける。ave.30km/hが目標だった。ベテラントアスリート、オニバスさんのバイクの経験談が脳裏を掠め慎重になる。ネガティヴ走の実践だ。気持ちを落ち着かせペースを保ち、まずは補給を摂ることに専念した。両津ASまでには固形物をやっつけて、ボトルに詰めたドリンクを飲み干す予定を実行に移す。

 日吉神社を通過する。両津を目指して幾度となく通った道だ。ペースを上げるには最良のコース。ぼくはペダルに集中した。明滅するサイコンが目に入る。時折、液晶画面が薄くなりフリーズする。最後まで持ちそうにないな。普段あまり使わない心拍計のせいか、バッテリーが切れそうな感じだった。

 両津の交差点に出て、すぐに右折する。沿道から大勢の声援が、待ってましたとばかりにワーっと湧く。思わず鳥肌が立った。ぼくへの声援のようでなんだか照れくさい。この地元の声援も佐渡トライアスロンの名物なのかも知れない。そうして両津ASに差し掛かる。バイクスタートから概ね40分。予定通りのペースだ。
 ASは想像したより閑散としている印象だった。減速してスポドリを受け取り、空きのボトルゲージに差し込んだ。それは記念すべき、生まれて初めてのバイクエイドだった。それと、確かペコわとさんが応援に…。あっ!いたぁ!ASを越えた所に潟鉄バイクジャージを纏った美女を発見。彼女もぼくに気づいてくれて「ウォー、いっけー!」と大きな笑顔と声援を送って頂き、すぐさま合図を返した。それは、ぼくなりに格好をつけた返答だったけど、ちゃんと届いただろうか。

 小佐渡へ向かうバイクルートは、今年7月にタカさんに案内されて、強く印象に残る場所がいくつかあって、見覚えのある風景から記憶を辿った。
 沿道の声援もあり調子に乗って、住吉の上り坂を頂上めがけて思いっきりダンシングで登ったけれど、またすぐ上りに出会して、あれーこんなんだったかなと思ったりと、まぁどちらかと言えばハズレが多かったが、試走は大いに役立った。ペダルを回しながら改めてタカさんに感謝する。

 とにかく至る所で、沿道から声援を頂いた。こちらはちょこんと首を下げたり、どちらかの手で合図したり、嬉しくて、また頭の下がる思いだった。空からポツリポツリと雨が降り始めているというのに、まるでそんなことはお構いなしで声援を送ってくれる。

 遂にサイコンのバッテリーが上がる。ホワイトアウト。多田を越えた辺りだったかな。腕時計をしていなかったので、唯一の頼りを失ってしまった気分だった。よっぽどであれば近くを走る選手に、今何時ですか?と質問するのもアリかなぁと考えてみる。すでに2時間近くバイクに跨っていて時間感覚が麻痺してきていた。ギアとケイデンスの雰囲気で走り続けるしかなかない。それから里程標を見逃さないように注意することにした。

 赤泊ASが近い。さぁ間もなく小木だ。小木の坂だ。心の準備をする。距離に馴れないせいか、腰が痛む。バイク用の背筋が足りないのかも。ついで右の足首が何故か痺れる。ひょっとしてこれは計測バンドのせいかなと思い、バンドを緩めようとした。マジックテープで止まっていた計測バンドはいとも簡単に足首から外れてしまった。当たり前だ、マジックテープだもの。自分自身にツッコミを入れる。ぼくは右手にバンドを持ったまま、ペダルを踏みながら暫く考える。空のベントウバコに仕舞おうかと思ったが、潔くバイクを降りて右足首に巻き直す。すると、シャーっとペダルを漕ぐ音とともに数台のバイクが、ぼくの前を通過していく。その疾走する姿がとてもカッコよく映った。ぼくは一つ背伸びをしてバイクに跨る。ちょっと腰の痛みが和らいだ。前を行くバイクを追うつもりでペダルを踏んだ。

 遂に、小木だ。道路を右折して坂を上る。試走の時はダンシングで上ったけれど、此度はシッティングも交え、当然インナーも活用した。それは記憶より長く険しく感じた。そして、後方から女性とおもわれるTTバイクにアッサリ越されてしまう。スゲ〜と感心しながら気持ちに火がつく。負けてらんねぇー、チクショー。必死に漕いだ。その差は縮まることはなかったけれど、お陰でひと頑張りすることができた。

 この頃になると雨脚が強まっていた。路面が濡れている。それでも相変わらず沿道からは声援が届く。雨の中、傘をさしての応援だ。
 潮掛鼻、西三川郵便局までたどり着く。ここを越えるとあともう少しだと思った。坂を下っていくと眼前には真野湾が広がっている。
 サイコンは消えてしまったけれど、無事にここまで来ることが出来た。これはひとえにCADD10のお陰だ。バイクを愛おしく感じてしまう。もちろん大会前にメンテナンスを引き受けてくれた佐々木輪店さんにも感謝しなきゃ。
 今回はほぼ完成車の状態で参戦したけれど、来年はもっとカッコいいホイールを装備して決戦仕様で臨みたい。それからDHバー。何度か握ってみたけれどちょっと不自由に感じ、スピードに乗るときは下ハンを握ることが多かった。こういうところも、一考を要すところだ。ぼくにとってバイクはまだまだ未知の領域が多い。より乗りこなすことはもちろん、機材のことなんかもちゃんと勉強しようと思った。

 住宅の並ぶ通りにに入ると、何かの建造物に備え付けてある時計が目に入った。正午前にはランに入れそうだ。上出来じゃないか。但し、あの時計が間違っていなければ。
 不意にランナーが目に飛び込んできた。トランジションはもうすぐそこだ。ようやく戻ってきたのだ。商店街の突き当りを左折すると、スタッフから減速の指示を受ける。ぼくは降車ラインでバイクを降りた。4時間近くぶっ通しでバイクに跨っていたのは、これが初めてのことだった。
次はランだ。バイクを押しながら少し足早にトランジションへと向かった。
(ラン編へと続く)

2 件のコメント:

ゆーサーモン さんのコメント...

まだ、バイクを終えたところの記事ですが、我慢できずにカキコしますw
お疲れ様でした!
Bタイプ完走おめでとうございます!
流石、詳細に記事を丁寧に書いていて、臨場感たっぷりです。
勢いだけで書く私の記事とは大違いw
バイクへのトランジットの際、ウエットを脱がずにシューズを履いたり、小佐渡でアンクルバンドを外したり、私もしたことがないような様々な経験をされましたね~w
51.5では味わえないドラマが佐渡トラにはあります。
ランの記事も楽しみにしています!

Cyguns さんのコメント...

スピリットZさんへのお返事です。
ありがとうございます。今回、皆さんに知って頂きたい僕のやらかしはその2点です。
ウエットの下を履いたままというのは、ホント、痛いデス(T ^ T)
また来年も佐渡へ行く機会が、幾度とあると思いますが、変わらずご一緒して下さい。