2023年9月8日金曜日

2023佐渡トライアスロンBタイプのこと②

 スイムタイムの看板に従い、ぼくは30〜40分の後方あたりの砂浜に腰を下ろした。ゲストの松田さんを紹介するアナウンスのあと、彼は波打ち際沿いに移動しながら選手とタッチしていく。偶然ぼくもその列に居合わせてタッチのご相伴に預かった。松田さんの背中はあいからず広くて大きい。オリンピアンの後ろ姿に見とれてしまう。
 チャンピオンシップ出場選手の紹介では、SNSや雑誌媒体などで顔を知る太田麻衣子さんが紹介され(レース後のトランジションで少し会話ができた!)、参加者全員がスタートに着いた。少し早いかなと思いつつ、ぼくはゴーグルを装着した。そして、いつものルーティン、鼻をかむように両手を顔に当て大きく深呼吸をした。準備完了だ。
 オンユアマークの発声の後に渇いたピストルが鳴った。押し出されるように海へ入る。さぁ始まりだ。

 沖へ向かう前半、掻きのピッチに意識を廻してBPMのコントロールを心がける。接触(バトル)は少なくないので周囲にも気を配らなければならない。
 佐渡トライのスイムはコース最内に小さなブイを結んだロープが張られているので、右ブレスの際に内を視野にいれ、周囲の選手の様子と合わせると進行方向を予測できる。ヘッドアップは必要だが、7月の佐渡OWSよりずっと少なく済ますことができた。
 岸へ向かう後半はストレッチタイムを意識する。浜に向かう波に乗るイメージをもって水を大きく掻く。ヘッドアップして目印の電波塔を確認しつつ内へ移動、ロープ横に位置を取った。同じことを考える選手と幾度となく接触したが、蛇行を最小にできるメリットはあったと思う。
 スイムの接触は背筋、腰周りや下肢が力んでしまい、背中の丸みを失ってしまう。それに脱水気味の状態ではちょっとしたことで痙攣を引き起こす。スイム後半の接触は注意が必要だ。

 浜に近づくにつれて海底が近づいてくる。いつものようにギリギリまで掻いて、砂底を叩くようにして立ち上がる。波打ち際が近かった。少しよろけながらゲートを通過すると、左側の柵越しから拍手が聞こえた。
 キャップ、ゴーグル、耳栓、上着。ひとつひとつ装備を外しながら敷設されたマットの上をかける。海水の浮力が抜けきらぬ身体感覚が陸の重力を受け入れていく。この独特な浮遊感はトライアスリートにとって尊い時間だとぼくは思った。


 バイク序盤にかなりの苦戦を強いられる。国仲バイパス、風はアゲインスト。両脚のハムが動いてくれない。スイムで思いのほか消耗したらしい。脚が強張って上手く制御できない。2本の丸太棒をぶら下げているかんじだ。もしかして背中からきてるの?ハムのあたりをグーでこづいたりした。
 乗っけからこの状態はいままでにない。すごく辛い。気持ちよくペダルを踏めないし、身体そのものにも力が入らない。するとネガティブ思考がバンバンと湧いてくる。ここぞというばかりに心を折りにかかってくる。もうここで辞めてもいいんじゃない?辛いんだから…。
 雲が陽射しを遮ってくれていた。用意した補給のいくつかを喉に押し込む。今、ぼくができることといったら補給を入れて我慢することぐらいだ。スイムの消耗は予想以上と考えたほうが良いのだろうか。

 住吉あたりの坂は無難にやり過ごした。元気なときはグイグイいけるのだけど。
 30km通過で平均時速は30km/hを余裕で下回っていた。この頃ようやく補給が効いてきたのか、それともフォローの風のおかげか、何となく調子が上がってきた。

 最初のエイド補給を受け取る。手持ちの飲み物より格段に冷たくて、喉を通ったあとに体内で爆発的に清凉感が広がるようだった。清凉飲料のコマーシャルみたいに。それが合図のようにスピードに乗る。それまではただ抜かれるだけだったが、他を追い抜き始めた。流れを掴んで一気に小木まで進んだ。時間の経過とともに陽射しは力を増していく。身体に入れるよりも浴びるほうが必要になる。

 小木の坂。苦手意識の強い登坂だ。右手に現れる柿の看板まではガマンと思ってペダルを踏んだ。陽射しに晒されて頭と身体が必要以上の熱を帯びていく。オーバーヒートするので、ギアを下げてセーブする。遅くても進めばいい。西三川も無理せずに進む。そこを抜ければ、あとは・・・と思いきや、向かい風なのか速力が上がらない。消耗からくる出力低下も否めない。残り10km。ぼくはサドルポジションをさらに前に取って、平地に関わらず体重を使ってペダルを漕ぐ。するとその体勢もよかったようで、辛く感じていた腰の痛みが和らぎ、速力が戻った。
 再びトランジションに戻ってくることができた。想像よりも閑散として、陽射しに照らされたトランジションはいつも以上に眩しくみえた。ぼくは降車して自分の場所へバイクを押した。(つづく)

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