2022年9月11日日曜日

2022佐渡トライアスロンBタイプ、バイクからDNFまで。

 DNFの選手の文章なんて読んでも意味ない。はい、まったくその通りだと思います。が、もしかしたら何か気づきがあるかもしれません。読む読まないは、どうぞご自由に。

 トランジションでウエットを脱いでヘルメットを被り、ゼッケンベルトを腰に装着。あれ、これで準備OK?拍子抜けするぐらいサラッと支度が整ったので、ウエットをたたんできちんと籠にしまう。再度、装着物を点検し、ラックからバイクを下ろしてスタートラインを超える。あらかじめビンデイングにセットしたバイクシューズは後ろのつばに輪ゴムを通し、バイクにひっかけて左側のシューズを下側にしている。乗車ライン過ぎざまに、パッとカッコよくバイクに飛び乗りたいのけれどさほど上手くはいかなかい。やっぱりこの練習は必要だ。実は、これ毎回思っているかもことかも。
 ーさぁ、これからよろしく頼むよ!この日のために決戦用ホイールを装備した相棒のキャノンデール エボシックスに語りかけた。

 佐和田から国仲バイパスへ。向かい風に押されているのか、あまりスピードに乗れない。BPMは高め。そうそうと思い出したように準備した補給のいくつかを胃に納める。
 選手の密度はそんなに濃くないが、ここいらの道中は抜きつ抜かれつを繰り返す。ここは気張ってはいけない。
 両津に入る。あまり見覚えのない、幅員の広い道路へ誘導され大佐度一周線入る。Bタイプ最初の難所の住吉、眞木あたり。坂を登るとパラパラといくつか声援が聴こえる。沿道からの応援にまだ慣れないせいか、ぼくはなんだか照れ臭かさい。そうそう、ここいらののぼり坂は、ー覚悟していたよりシンドくなかったのでホッとした。ホイール様さまだ。

 朝の曇り空は気がつけば青空に変わっていて、どこぞを通過した辺りから蝉の声が耳に届く。小木の坂までは大した難所はなかったよな、なんてことを考えながら前を行く選手との距離に気をつけながら、抜きつ抜かれつペダルを踏んだ。とても楽しい!サイコンの速度表示をチラっと確認すると、実力上限に近い速度が出ている。大量のアドレナリンと追い風効果だ。そして、ひょいと後輪ギアを確認すると、トレーニングより2枚上のギアを踏んでいる。苦しいわけじゃないけれど、後半のためにギアを落とす。速度は下がるけれど、そこはケイデンスでカバーする。

 断片的ないくつかの記憶が蘇る。TTバイクの下りの物凄いスピードに思わず声を出したり、上背のある脚の長い女性選手にあっという間に追い抜かれ、あれよあれよその背中が小さくなっていく。そしてふと左に顔を向けると新潟の山を背景に光が反射する青い海が広がっているのだった。

 赤泊ASで受け取った水のボトルは身体の冷却用とした。確実に陽射しが強まっていく。頭や首を狙って水を掛ける。思いの外水は冷たかった。あの、ひやっとする感覚がたまらない。

 小木の坂へ。急勾配の坂に速度を瞬殺され、ぼくはすぐにフロントギアを落として残り僅かのギアでクルクルとペダルを廻す。周囲の選手たちも同じように抗えない重力に呪縛される。そのさまはそれまでの時間の流れが急に遅くなったように感じられた。
 ぼくは少し先のアスファルトに視線を落とし前方の視界を確保し、できるだけ楽な姿勢でペダルを漕いだ。坂の一区切りとなる柿の看板まではあっという間だった、が、疲労感は一気に濃くなった。
 気温はさらに上昇し、周囲を照らす。両足の四頭筋がピクピクして引きつりそうになる。細かいアップダウンが辛い。下りではホイールの力を存分に借りることにした。

 西三川の坂で、幼子を抱いた若い夫婦に声援をもらったので右手をあげて応える。それは上り坂の真っ最中。ふくらはぎがピクピクと意図しない挙動をする。ここを抜ければあとは下り。常にそれを胸に、しまふうみさんのある下り坂に向かって一瀉千里に通過、真野湾の先に街並みが見え、時計を確認する。残すところはあと10km。予定時刻には及ばなかった。

 バイクトランジションはまだ閑散としていた。降車ポイントから自分のトランジションまでは距離があった。もちろん目印があるので迷うことはなかった。メットを脱ぎ、バイクラックに相棒を掛ける。
 ー今回もノートラブル、ありがとう、おつかれさん。
 靴下を履き、ランシューズに足を入れる。シューレスを結ぶ手はミスなくちゃんと動いてくれる。サンバイザー、サングラス、それからラックに備え付けられたカゴに準備した補給を背中のポッケにしまう。手際は悪くない。

 ランスタートのエイドで身体に水を掛けてもらった。ひんやりとした水は身体を生き返らせる。スポドリを手にし、思わずコーラも取ってしまった。ふたつともほぼ一気飲み。さぁここから。時計は11:40を過ぎている。計画からは10分のビハインド。それは真野のあたりからわかっていた。前回タイム越えは難しそうだった。そんなことを考えなら、ゆっくりとランに入った。時計は見ない。まずはペダルを踏んだ脚を、走る脚に変換することが最優先。普段のラン通りでいい。
 1km通過の時計は6分1秒。うーん、1秒余計だな。この頃は、まだそんな余裕があった。トコトコ進んでいくうちに段々と気持ちが悪く、吐きそうになってきた。風があったかどうかは覚えていないが、粥の中を走っているような感覚に陥った。胃の中の液体が込み上げてくる。脚が止まりそうになる。
 2度目のこみ上げには我慢できず、コースを外れて嘔吐する。エイドの飲み物に違いなかった。コースに戻り、走り出す。どれぐらい走れたかわからない。すぐに止まったかも。歩いた。仕方ない、歩こう。いや走ろう。またすぐに止まる。折り返しはどこだろう。緩やかに湾曲する海岸沿いを見渡し見当をつける。時計のキロラップは7分を知らせた。走ったみた。止まる。続かない。仕方ない歩こう…、…、…。

 2週目に入るところにいた審判に声をかけ危険を告げる。誘導されて芝生に座るように言われ、棄権の手続きが行われる。思っていたより手際良く、そしてとても呆気ない。
 今年、いやその前から、ずっと想い続けていた夏が閉じる。いや、自分で扉を閉めたのだった。

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