2023年7月31日月曜日

佐渡OWS2023(当日)

 AM5:30起床。宿に泊まっているライフセイバー達が出立の準備に取り掛かっていた。例年ぼくは朝ジョギングをするのだけど、前日の夕方に少し走ったので、レース前の体力温存とういこでパスして、スーパーで買ったおにぎりと、残りもののバナナをよく晴れた空の下、宿の中庭でいただいいた。食事の内容はともかく気分がいい。食事について誰と食べるかはよく言われるけれど、どこで食べるかもとても重要なのだ。
 チェックアウトの準備を終え手持ち無沙汰になったので、予定していた時刻より早く宿を出た。外に人はおらず静かだった。陽射しがやけに強いので、日陰を選んで会場へ向かった。

 路地に黒猫が寝そべっていた。立ち止まると猫は顔をもたげた。胸が白毛で、まるで前掛けをしているようだった。その白前掛けの黒猫が、こちらに顔を向けぼくの様子を伺っている。ぼくは猫を見つめながらそっとその場にしゃがみ込む。こちらの出方をみているようだが、警戒を解いて再び寝転んでしまった。ぼくはゆっくりと立ち上がったが、猫は尻尾すら動かさずに寝そべったままだった。
 昨夜、夕飯で寄った定食屋さんの前を通りがかると扉が開いている。そろり店内を覗くと、厨房の方で物音が聞こえる。思い切って声を掛けてみた。すると女将が顔を覗かせ、あら、いってらっしゃい!と笑顔で見送られる。声援というものはなんだって嬉しいものだ。

 商店街に整列する看板建築や町屋風の建物は、海風に晒されて充分過ぎるほど年季が入っている。刷新された家屋は少ないが、そういった代謝がない訳ではないらしい。貸家や売地の文言も散見される。離島、過疎に高齢化。言葉にすると深刻だが、すぐどうこうということではない。ひと集めのコトやモノといった一連の催事に、ここの人々の暮らしは上手に寄り添っている。ぼくには特別な日曜だが、この河原田にはいつもと寸分に違わない街の時間が流れているようだ。

 さてさて。会場ではOWS1,500mがスタートし、沖へ向かう一団がみえる。ライフセイバーのカヌーや水上スキーが散開して選手たちを見守っている。ぼくは受付をして左腕に油性ペンでナンバリングしてもらう。じわり気持ちが上がる。
 受付周辺には見知った顔があり、ひと通り挨拶を済ませて支度に掛かる。今年もウエット着用、一度ぐらいはノーウェットで参加したいと思う。

 もちものを手荷物に預け桟橋横の試泳場でアップ。まだこの期に及んで躊躇する自分がいる。平静を装っているが内心は穏やかではない。久しぶりのレースへの緊張感、それに去年の失敗を思い起こして不安にかられていた。
 スイムチェックを真っ先に受け、スタート付近で待機した。レース前のルーティーン、1点を見つめながら鼻をかむように、両手で挟んで時間をかけて深呼吸をする。ゆっくり大きく吸い込んで、長く吐く。何度も繰り返す。不思議なもので、呼吸が穏やかになって、ほんのりやる気が出てくる。沖のブイを見つめて両手で頬を何度か叩く。準備はできた。

 オンユアマーク、沈黙そして号砲。ブルーキャップのぼくはグレーキャップ(1時間以内完泳申告者)のすぐ後ろについてスタートした。海に飛び込むタイミングに一瞬躊躇したけれど、目の前に空いた1人分のスペースに飛び込んだ。白い気泡が視界に広がり、ぼくは海水を搔いた。
 沖に浮かぶ「1」と記されたオレンジのブイに向かう。やや早いピッチで水を掻く。他の選手と接触する。ちょっと泳ぎずらい。ヘッドアップして目標を視認。浜辺から立ってブイを見るのと、泳ぎながら見るのでは見え方が全く違う。時折、ライフセイバーに重なってブイ見失ったりもする。ヘッドアップを連続して確認。ついでに周囲のスイマーの存在も確認する。

 長距離泳は泳ぐこと以外に意識をそらすと、確実にペースが落ちるとその手の本に書いてあったので、此度は常に自分の動作に意識を廻すことにした。
 泳ぎの引き出しの数がものをいう。例えばヘッドアップやブレスの次の動作として、首を脱力して真下をみるとか、波やうねりに対応してストレッチタイムに変化をつけたりと、細部に注文をつける。入水エントリー時の腕の高さ、手の甲の向きなんかでもいい。出来うる限り惰性で水を掻かない。下腹部に力を入れたり、背中を丸めたりなんでもいい。手を抜かないよう努めるのだ。

 ようやく「1」のブイに辿り着いた。いつも入りの直線がとても長く感じる。
 続く目標の「2」のブイは近いようで遠い。潮の流れのせいかな。手間がかかる印象だ。
 そして「2」から「3」へ。つまり沖から岸へ向かう場面では「3」のブイはもちろん、公衆トイレ脇の仮設の青いテント、それと電波塔、この3つの目標を頼りに方向を確認する。右へ流れされる傾向があって「4」のブイとの見間違いを防ぐ必要があるのだ。

 うねりに翻弄されフラフラしながら「3」にたどり着く。浜辺へ向かう場面は、段々と海が浅くなっていくのが判るので、方向さえ間違わなければ沖へ向かうのより気は楽だ。

 2周目。気持ちに余裕ができたのか、タイムが気になった。そう、今回は腕時計の着用がNGとなった。理由はわからない。ぼくはGarminに15分ごとのアラームを設定していたが、時計を知る術がまるでなかった。
 右手に伴泳する方の帽子がグレーだった。おっ、もしや!と期待は高まったが、すぐその後にはピンクキャップもいらっしゃる。判断しづらい。ここまでの時計は悪くないと思うことにして気を散らすのをやめる。

 今回、唯一のアクシデントは2周目の浜へ向かう場面で、右脚のハムが激しく痙攣しまい泳ぎを止めたことだ。状態を起こして水面で浮かんいたらライフセイバーに声を掛けられた。ぼくは、問題ありません、キリッ!と、再び泳ぎ始めたがすぐまた攣ってしまった。ヘッドアップが雑になって腰右ハムの攣る原因だろう。
 今年の佐和田の海は泳ぎやすかったと思う。目標を大きく見失わず、泳ぎの動作に意識を廻して、流れやうねりの場面で工夫できた。とにもかくにも焦りは禁物。常に冷静であることが肝要なのだ。
 もっぱらジムプールでの個人練習、スキルアップは難しいなぁと感じていたこの頃だったが、結果(58分22秒)を知って胸を撫で下ろす。ぼくのクロールは、まだまだ磨き上げられるところがたくさんある。これからも飽くことなく磨き続けて来年も参加したい。そして関係各位、皆々様に感謝したい。これがぼくの2023年の佐渡OWSである(了)。

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