2023年12月13日水曜日

2023年 第37回那覇マラソン ハーフからフィニッシュ編

 「那覇マラソンはさぁ、所々で写メ撮ったりして楽しむマラソンだよ。」
 何度か走ったことのある御仁がそうアドバイスしてくれた。新潟住みのぼくには信じがたい師走の気候と絵に描いたような南国の風景。そして沿道の絶えることのない声援や奉仕。起伏の多いコース設計は記録を狙うそれではなく記憶のレースなのかもしれない。

 20km通過。待ちに待った下り坂だ。幅員のある見た目にも長い下り坂が眼前に展開していた。しかしここに至るまでの疲労感は否めない。さりとてまだやり抜けない感じはなかった。後半の為のとっておきの補給の封を開ける。この下りを上手に利用して体力を繋ぐ。ペース遵守。調子に乗りすぎて終盤の失速が早く訪れるのは分かりきったことだ。

 平和記念公園の中間地点の通過は手元で1時間55分ぐらいだったと思う。下りのスピードに乗りながら、元気の良い地元の高校生達とタッチした。彼らの盛り上がりが尋常ではなく、こちらが臆するほど眩しく感じる。彼らは「人間の鎖」として時間制限オーバーのランナーを止める役目を担っているらしい。

 ひめゆりは漢字で「姫百合」と書く。ひと昔、いやふた昔前の看板デザインを目にして気がついた。漢字の表記だと誰もが知っている戦時中の事象についてさらに重みが増す。那覇マラソンの最中に、ひめゆりの塔に献花するランナーの方もおられるそうだ。
 先人の犠牲に立つ平和への感謝。今日のウクライナ、ガザへの手向けだろうか。為政者は争いを用いて無辜の人々の生活や命を奪うことを躊躇わない。寒い時代だ。

 26km付近、下り基調は終わり緩やかな起伏のコースに転じる。わずかな上りでも疲労を覚えた。左右のひらめ筋が痛む。ビギナーの頃以来の痛みだった。狼狽える。その両脚の鈍い痛みは走る意欲を容赦なく削っていくようだった。
 じわじわとペースは落ちていく。30km通過は2時間40分ぐらいだったと思う。残り12kmをキロ6分で刻んでもなんとか4時間は切れるなぁーと計算する。

 34kmの手前、遂に歩いてしまう。いやいや35kmまでは走ろう。なぜなら宮古島のランパートはその距離だから。己を鼓舞して再び脚を動かすがすぐにブレーキがかかる。休憩が必要だった。ひと息を入れる。そうこうしながら35km地点に到達した。そこまでは頑張ろうと思っていたせいか35kmの里程標で再び歩いた。4時間を切ることは、もうどうでも良くなってしまっていた。少し走って歩くを繰り返す。
 この辺りはどこでもみれるような商店が軒をつらねる印象が残っているのだが、沿道の盛り上がりは相変わらずだった。筋冷却スプレーを差し出す方々がとにかく目立った。

 37km通過。確かその辺りだったと思うが、沿道のサンピン茶の差し入れを頂いた。それはコーヒーを想起させるほろ苦さが口いっぱいに広がった。苦いのだけで不思議に清涼感となり、ぼくの背中を押すきっかけとなった。鞭を入た。あと5km、頑張ろう。

 小緑(おろく)バイパスからモノレール駅のある赤嶺(あかみね)までの上り坂が長くて辛かった。似たペースの方に話しかけたり、沿道の声援のお陰でなんとか歩かずに凌ぐことができた。
 坂を上りきって右に折れるとモノレールとの並走となった。見覚えのある道だ。なんとなく下り基調になることを予想していたが、差し掛かってみると想像以上に下りの勾配があって時計を稼ぐことができた。あそこがなかったらグロスで4時間はきれなかったかもしれない。

 奥武山公園の交差点を左折すると、屹立するセルラースタジアムが目に飛び込んできて圧倒される。ゴールは近い。けれど鉛のように脚は重くこちらの言うことを聞いてはくれない。先ほどの下りの反動だろう。

 スタジアムを右に折れて公園内の小道に入ってからとてつもなく長く感じた。見覚えのあるゼッケンを受け取った体育館の辺りを蛇行した。コースに沿って整列する地元高校生からは、あともう少し!の声援を山のように浴びる。で、あともう少しとはどれぐらい?なんて思いながら、必死に脚を進めると、遂に陸上競技場の入口とフィニッシュゲートがみえた。

 グロスタイムは3時間59分41秒。まじでギリ。ハードコースを理由に言い訳はいくらでもできるが、単に走力不足なだけだ。偶然に体裁を整えることはできたが肩を落として完走証を受け取った。
 ぼくはこういうコースは嫌いではない。こういう環境のフルマラソンは初めてで、とても良い刺激となった。可能ならばまたもう一度楽しんでみたいと思った。次回参加を胸に会場を後にした。

 すべてのメンバーが走り終えて集合地点に帰ってきた。そしてそのままチームメンバーのご自宅へ直行して大宴会が催された。準備していただいた奥様、お嬢様方、本当にありがとうございました。
 ぼくは沖縄の家庭料理に舌鼓を打ち、おいしいお酒を飲みながらその場を心から楽しんだ。思いがけず、普段よりも盃を重ねたけれど楽しいと酔わないらしく、フルマラソンにかけた以上の時間を過ごした。こうした繋がりも次回参加への意欲になろう。よい想いでとなった初めての那覇マラソンだった。(了)

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