2024年11月10日日曜日

第37回伊是名88トライアスロン(レース編)

11/3(日)レース当日

 未明の頃、仲田港に隣接する陸上競技場のあいだの架設のバイクラック、いわゆるT2と呼ばれるバイク-ランのトランジションエリアへ赴いた。ランで使用するあれこれをパッケージした袋を自分のゼッケンNo.に準備するためだ。確かAM5時半頃だった思うが、空を見上げると名だたる秋の星座が光り輝いていた。

「昼間の空は大地の一部で夜の空は宇宙の一部」そんな台詞が脳裏をよぎるほど美しい星空だった。わずかに明かりが灯るアスファルトの道をポツポツと歩いていると、鳥の鳴き声が聞こえてくる。誰かが琉球梟の鳴き声だと教えてくれた。

 ぼくらは淡々とレースの準備を進めた。正直いうとぼくは寝不足感があった。小心者は枕が変わると途端に眠れなくなる。今回も例外はなく熟睡には程遠かった。隣で高いびきをかく副キャプテン殿を恨めしく思ったものだ。ここに及んでコンディションを言い訳にしてもつまらない。船酔いも寝不足も、そして30℃近い気温も全部受け入れるしかない。


いざ会場へ

 AM7時半を過ぎた頃、島内放送で大会の実施が告げられ、周囲の民家から歓声がきこえた。ぼくらと同じように民泊する選手たちだろう。さぁいこうか!用意したデュアスロン用のシューズを装備から外し、ぼくらは少し雲のかかった朝焼けの陽光に照らされ、急ぐこともなくペダルを踏んでスイム会場を目指した。


 バイクのセッティングをして、スイム会場でICチップを受けとる。試泳をして、スイムチェックを済ませたぼくは体育座りで海を眺めていた。

 海にはいくつものコントラストがあり目を奪われた。遠くの珊瑚礁を越える波の行方を眺めているだけで飽くことがなかった。北東の涼やかな風が陽光を和らげ、これまで見たことも感じたこともない不思議な海の景色がそこにあった。この海の向こう側にニライカナイがあると信じてしまうのは道理だと思えた。レース直前に関わらず、ついもの想いに耽ってしまう。


 スタートが近づいてきた。テチメンバーで円陣を組み安全第一!のかけ声を合わせる。それぞれ思い思いの位置について号砲を待った。ぼくはいつもの直前のルーティーン、両手を鼻に合わせて深呼吸をして気持ちを整えた。


1.スイム

 AM9:00、定刻通りレースはスタートした。浜辺から数歩進んで海に入ると、すぐに泳げる深さに到達した。先を行く選手を追うように水を掻く。そこそこにバトルを繰り広げながら目標物を確認する。海水の透明度が高いのは言わずものがだが、それ以上に強い潮の流れを感じた。気がつけばコースロープ側へと流されている。だがこれは計算通り。しかしさらに流れが強いところでは前に進むことすら容易ではなかった。抗えずに左手がコースロープに引っかかる。掻きを深めにとったり、ピッチを上げたりと潮の流れからの脱出を試みるが簡単ではなかった。自身の技量のなさを恨んだ。スイムアップ目標は40分、いや、もう少し早いだろうなんて甘々だった。リーフの切れ目から流れいずる海流がいく筋も存在するのか。これまで泳いだ海とは比べ物にならないテクニックが要求される伊是名の洗礼だった。さらに幾度か海水を飲んでしまい気持ちが減退する。いっそリタイヤしてしまおうかと脳裏をよぎる。あまりに苦しくなって立ち泳ぎして息を入れたのは確か3度。潮流を攻略できなければタイムは望めない。コースロープに対する位置どり、ヘッドアップの頻度を上げ自身の居場所を確認することが必須のコースだった。四苦八苦してT1に向かったのは44分を経過していた。(スイムアップ 44:26)


2.バイク

 スイムゲートからバイクトランジションまでの距離はおおよそ300m程度。ウエットを脱いでしまえば、所定のものを順番通りに身につけるだけ。ラック付近の、着替えにあてられるスペースがやや狭い。さらに、ぼくのスペースはすぐ後ろが砂地だったので、脱いだウエットはもちろん、脚やら何やらに砂が着くことに躊躇して気を取られてしまった。

 スイムの疲労もあり、さらに向かい風スタートだったのでバイクはすんなりと入れない。スピードに乗れない。焦っても仕方ないので、ぼくは予め準備した被り水で身体の熱を逃し、リカバリの補給飲料と固形物を口に入れた。

 1周目はコース観察、焦る必要はないと言い聞かせながら、力まないようにペダルを踏む。そうこうしているうちに追い風を受ける区間に差しかかりスピードがぐっと上がった。

 周回カウントするバックストレッチからの紺碧の海の眺めがよくて気持ちが上がる。仲田港の入り口、やや下り、少しクランクする右カーブに差し掛かる。そこでとんでもないアクシデントが発生。カーブを曲がりきれないことがわかった瞬間、ブレーキを強く握って、段差のある歩道に沿って転倒する。あーやっちゃった!とつぶやきうように声を出しながら倒れたことをはっきり覚えている(笑)。


 アスファルトに身体を打ちつけられ、寝転がるように倒れた。すぐに起き上がり、倒れたバイクを起こし状況を確認する。ボランティアの中学生ぐらいの男の子2人が、大丈夫ですかー!と近寄ってくる。ぼくは右手を挙げて、大丈夫!と声を張った。本当は大丈夫かどうか全くわからなかったけれど。

 バイクチェーンが外れている。転がったボトルを拾ってホルダーに戻す。バイクを起こして跨り、ビンディングをはめペダルを踏んだ。キャノンデールは何事もなかったように前進した。特に異音もない。行ける!大丈夫。自分に言い聞かせる。

 仲田港のコースにいた人々は、ことの始終を目撃していたのではなかろうか。転倒してしまったことんも恥ずかしさが先行し、左の膝や腿や肘の裂傷の痛みはそのあとに判った。アドレナリンのせいか、この2周目はややオーバーワーク気味になってしまった。


 島を時計回りに周回するバイクコースを面白くするのは風向きだった。起伏はいくつかの区間はあるが長い距離ではない。スピードに乗れるコースだと思う。

 前日の試走では向かい風と起伏が重なる場所があって、やや面倒かもしれないと感じたが、本番の、少なくとも自分の時間帯では、前日のように難儀をする箇所はなかった。

 向かい風になる場所が時間経過と共に変化してた。伊是名漁協あたりの右左に連なるカーブを抜けると大体向かい風で、その前後で風向きが半時計周りに少しづつズレていくようだった。

 懸念事項だった周回不明もGarminの計測とOさんのマスキングテープ作戦があって、迷うことなくフィニッシュを迎えた。落車したけれど、スイムのロスはそう大きくはなかった。

(バイクアップ 2:07:36)


3.ラン

 T2到着。ラックにバイクを掛けながら周囲をみると、戻ってきているバイクは多くはなかった。シューズの紐をしっかり結び、走りながら身支度を整える。腰ポシェットから補給を取り出して封を開け、スタートのそばのエイドの飲み物で一緒に飲み下す。さぁ行こうか、ランの始まりだ。

 坂を上る。降車したてでスピード感覚が麻痺しているので余計に遅く感じて、歩いているみたいだ。左にゆるやかにカーブするとコースが見通せた。沿道には応援団がいらして鳴り物の音が耳に届く。まもなく、今回宿泊でお世話になっている名嘉(なか)さんの自宅前に差しかかり、名前を呼ばれる。立ち止まって補給をいただき、S子さんとHさんにハイタッチ。いってきまーす!と涼しい顔をして手を振った。

 上り坂は続く、とても長い。陽射しも強い。ようやく下りになった確か4km過ぎ。下りの衝撃で左ハムがつりそうになる。ずやんわり下ったが衝撃がハム伝わるたびに裏返りそうになった。

 銘刈(めかる)家を通過。日陰に平坦の場所だがペースは上がらない。しばらく進むとまた上り坂だった。

 往路に小高い起伏が4つ、つまり往復で8回は上る。表現しづらいがそれらがそこそこの上り坂だった。

 7km過あたりでついに脚が止まる。陽射しに負けた。葛藤。走り出そう、ゆっくりでいいから。そもそもペースはスロジョグ程度なので、気持ちの問題だった。


 折り返しに到達。さてあと半分。復路、ひとつ目の下りでMさんとすれ違いハイタッチ。1人じゃない、チームメンバーの仲間も頑張っているんだと励みにする。

 サトウキビ畑を見渡せる場所にたどり着いた頃、副キャプテン殿とすれ違った。もちろんハイタッチ。

 畑の通過途中、ボランティアの自衛官らの力強い声援をもらう。沿道のそれとは異なり気持ちが引き締まる応援だった。

 眼前に急な上り坂が見える。ここでも脚が止まる。前には同じように坂を上る選手がいる。もう坂は全部歩こうかとも考える。いやいや走ろう。止まっては走るを繰り返す。


 チームのMTさん、そしてOさんとすれ違いざまにハイタッチ。どの辺りだったかはよく覚えていない。次のエイドで水をかぶろうと考えていたことだけはよく覚えている。コースレイアウトも去ることながら、とにかく陽射しが大敵だった。


 銘苅家に辿り着くまでの下りが案外と長い。あぁここはキツイ上りだったんだと往路を思い出す。

 残り4km。行手には急坂が映った。まるで壁のよう。あの坂を登りきればあとはゴールまでは下り、そう考えながら脚を前に出し続けた。

 そして最後の上り坂に入る。絶対に歩こうと思っていたけれど、最後だしゆっくりでも走り続けようと頑張ることにした。無論速くはない。が、走りながら脚を前に出した分だけ早くゴールに辿り着けると信じて前に進んだ。

 遂に下りにはいった。ここから陸上競技場までは下りだ。だが距離はそれなりだ。応援する名嘉さんらに手を振って、坂の勢いを借りて前進した。


 競技場のトラックを半周してフィニッシュゲートをくぐる。いつものレースの締め、回れ右して一礼。終わってみればあっというまに感じてしまうのは齢をとったせいか。

(ラン 2:11:07 フィニッシュ 5:03:09 もう少し続く)

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