2025年9月16日火曜日

第37回(2025年)佐渡トライアスロンのこと

 1.スイム

 佐和田の海の浅瀬には白波がいくつも見える。

 Aタイプがスタートする朝の海といえば鏡面のような穏やかな印象がある、が今年は違った。浅瀬には波が立ち海面のところどころがうねってみえた。今年はハードモードだった。

 波立つ海を泳ぐことよりも、ぼくは波酔いを心配した。海で練習を始めた頃、二日酔いみたいなひどい波酔いを経験してから、海で泳ぐときには必ず酔い止めを服用することにしていた。普段は1錠を割って半錠ほどで済ますのだが、今日は1錠を使うことにした。

 Bタイプのスイムチェックが始まったあたりから進行役の新田さんが

「体調が心配だったり、泳力に自信のない選手はスイムスキップの申請をしてください。無理はしないでくださいね。」としきりに自制を促していた。安全第一のお知らせぐらいにしか気に留めていなかったが、海からの風が強まり、幾重もの白波が立つのを目の当たりにすると、時間経過とともに高くなる波を危惧しているのが理解できた。待機する選手からスイムスキップを選択する声も聞こえてくる。

 ぼくらBタイプの選手がスイム会場に移動を終えた頃、スタートの15分前ぐらいだろうか、審判長からスイムの距離変更が告げられた。今年のB.Rのスイムは1、350mに短縮された。ぼくは腹を括ってスタートを待っていたので距離短縮の措置に別段なにも感じないままに海上に浮かぶ目標物の説明を聴いていた。


 定刻7:30。号砲を合図に選手たちは一斉に海へ向かう。ぼくはちょっとだけ浅瀬を歩き空きスペースを見つけ海へ飛び込んだ。ひどく濁った海底を見ながら、水を掻きストリームラインの姿勢で波に翻弄されてみた。波の間隔や強さを掴もうとした。波の通過にあわせて水中を進み、通過後にブレスできればと考えていた。

 最初の何度かは上手く行った。しかし、今思えばそれはほんの僅かだったかもしれない。周囲からのプレッシャーを受けた途端にタイミングが合わなくなった。

 ブレスの最中に波に揺られると自分がどこへ向かおうとしているかが判らなくなった。ヘッドアップすると眼前に波が現れ前を塞がれ、盛り上がった波の斜面とそこに浮かぶ選手らの姿しか見えなかった。

 波に翻弄されながら周囲の選手達からあまり離れないように努めた。腕の時計が振動し、スタートから10分経過したことを伝えてくれた。目標に向かっていればあと自分の泳力なら一つ目のブイまで150mぐらいだろうか。あたりを付けてヘッドアップを繰り返し、ようやく視認できたブイは確かにそう遠くはなかった。


 第1ブイを通過して第2ブイを目指す。ブイの間を繋ぐロープをつたって進んだので波はあったけれどそう難しくはなかった。

 岸に向かうのも難しくはなかった。波に乗れば楽に進んだ。ぼくはリレーの選手をみつけ、その方の左後方について先導役に利用した。

 眼下の海底にはごろた岩が見える。岸は近い。もうしばらく泳がなければならないのだけど、言わずもがな沖に向かうのとは気持ちはまったく異なった。距離を短縮したことをふと思い出した。

 海底が身近に迫ってくると、すでに立ち上がっている選手がみえた。思わずぼくも立ち上がる。つられてしまった。しかし岸までは50m弱距離があった。2度ほどドルフィンぽいことをしたが全然上手くできないので、いつものようにギリギリ岸まで泳いだ。 ※スイムアップ0:22分


 2.バイク

 拍手と声援。バイクのタイヤとアスファルトの摩擦音にホイールの回転音。朝の佐和田の街にトライアスロンの音が響く。第2幕バイクパートの始まりだ。

 まずは両津をめざした。追い風。漕ぎ出しは力んでしまうようでハムストリングスやら四頭筋が疲れてしまいペダルを漕ぐのが嫌になる。いつもそうだ。なので自分の気持ちいいリズムでペダルを踏むように殊更に努める。周囲はもちろん追い風につられてはいけない。入りは自分のリズムが大切だ。左手に展開する雄大な大佐渡の山々に時折目をやりながら国仲バイパスを走った。


 新穂を経て両津、佐渡1周線に辿りつく。両津海岸から河崎、真木、入桑、姫崎を通って水津までくるとスタートの河原田から距離にして約30km。特徴的な佐渡島の形状の釣針のような地形をトレースすると風は完全な向かい風となった。

 AS(エイドステ-ション)で補給ボトルを受け取る。今年のボトルは黒、ソフトタイプでとてもカッコいいボトルだ。前にリレー参加の佐渡市長のバイクがいて、ボランティアの子らが、市長速いねーと話し合っているのが聞こえた。白いTシャツを着た彼の株は上がったに違いない。


 向かい風とは喧嘩しない。無理に頑張らない。向かい風の30㎞/hキープは難しいが、焦らずいつもの自分の漕ぎ方を通した。ちょい重いと感じるぐらいのギアで自分の体重を乗せるように、そして踏み込みすぎないようにペダルを踏む。ケイデンスは高くはない。風が強いと感じたらギアをひとつ落とす。ひたすらそれを繰り返す。

 岩首、多田、城ヶ崎に赤泊、そして羽茂を超えて小木。距離にして概ね80km。スイム会場に続いて小木ASで待ち構えていたIさん夫婦の応援が背中を押した。

 誘導に従って右折すると斜度のある上り坂が現れる。小木の坂だ。勢いはすぐに削がれ大減速する。太陽が顔をだしていて秒で汗だくになる。リズムよくこれ以上ないぐらい上手に上っているつもりだが、次々と後続に抜きさられる。力の差をみせつけられた。小木の坂はいつも試練が詰まっている。

 その登坂途中、反対車線の右手側、順位を教えてくれる男性がいらっしゃった。過去にもこの坂で通過順位を教えていただいたことがある。おそらく同一人物だろう。ぼくが通過するときに「44番!」といわれ励みになった。レース中の順位なんて知りようがないので、本当にありがたい。

 ぼくは前乗り、上ハンドルを軽く指先でつまみ腹圧を上げる。セオリー通りのロードバイクの登坂に徹底した。


 上りの難所を越えると素晴らしい追い風になった。そして進むにつれて空は暗転した。曇は陽射しを遮ってくれるので歓迎だが、あまりの急激な変化に驚いてしまった。

 下り坂ではホイールにしっかり仕事をしてもらいバイクコントロールに専念。最後の上り坂となる西三川のあたりは追い風を利用して楽に上ることができた。

 追い風は真野まで続いた。八幡館を通過したあたりから力はやや弱まった感はあった。がサイコンに目をやるとAve.30km/hを表示していた。終盤の追い風と下り坂のおかげだ。河原田までの残り僅かを気をよくして漕いだ。

 こうして振りかえると、普段やっていること、場面において適宜やらなければいけないことをやり通せるかが肝要。とはいえ気温が高くならなかったことがバイクパートに耐えられた一番の要因に間違いない。 ※バイクアップ3時間37分


 3.ラン

 トランジションで審判長から声をかけられた。まさかのペナルティー!?なんてことはなく小佐渡の風の状況とバイクへの影響をヒアリングをされた。端的に答えたつもりだが役立ったのだろうか。

 肩書きに「長」の着く方の重責は計り知れない。スイム短縮の判断なども含め、現場の情報収集に勤しむ彼の姿をみて頼もしかった。ぼくらは運営に関わるあらゆる人々によって競技に没頭できることをゆめゆめ忘れてはいけない。

 宮古島のときのように忘れ物をしていないか身の回りの確認をしてスタートした。空は一面の鉛色でいつ雨が降ってもおかしくない様相だった。進行方向から強めの風が吹いてくる。海をみると緩むことのなさそうな白波がいくつも立っていた。

 走り出しは悪くなかった。バイクからランの動作移行の違和感もあまり感じなかった。なにより陽射が照りつけないのが大いに助かった。携帯したビニール袋に氷を詰めてもらって身体を冷やしながら走った。

 1周目は調子に任せた。かなり前(赤泊あたり)から気になっていた生理現象を沢根ASで済ませる。トライスーツがワンピースなので着脱に手間取った。ミドルのレース中に用を足すのはこれまでほとんどなかった。それぐらいに汗をかかなかったということだ。


 沢根の折り返しから河原田まではサブ4ペースぐらいで走れたが、以降はキロ6分以下に落ちた。もちろん自覚していたが中盤なのでキープに徹した。エネルギー切れもあり得るのでひとつジェルを口に入れる。右足の中指が靴に当たって痛かったが、それはペースダウンの原因ではなかった。

 海岸沿いコースの2週目。顔見知りの選手に声を掛け合う。周回コースの良いところのひとつ。広角を上げて笑顔に努める。

 頭で何度もフォームをチェックする。この5月ぐらいからフォーム改善として、骨盤周りと上半身の連動動作、腕振りにピッチ。それから厚底シューズを上手に利用できているか、などなど。ここまでやってきたことを同じように繰り返すように努めるがペースアップに結ばなかった。

 誘惑もたびたびあった。しかし、次のASまでは止まれないと自分と交渉をした。その頃はペース維持がやっとだったと思う。終盤はペースを上げられるだろうと楽観的だったがそんな余地はわずかもなかった。

 限界を超えるとか、自身に抗えなんていう言葉はぼくには空虚でしかない。頑張るという言葉も嫌いじゃないけれど具体性に欠けている。自分のできること、これまでやってきたことを愚直に繰り返すしかない。同じことやっているつもりでも疲労によって精度が低下している。なのでしつこく繰り返す。終盤はこれしかない。今年は走れる環境があったが、どういうわけか走ることができなかった。これが今回のランパートの総括であり、今後の課題である。

 ※ラン 2:07分 ゴールフィニィッシュ 6時間9分

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