マラソンは必ず辛く苦しい時間がやってくる。大概それはゴールテープを切るまで続くものだ。
そこで必ず脳裡をよぎるのは、こんなに辛いことを一体何のためにやってんの?もう走るのやめちゃえばという内なる囁きだ。けれどぼくらは苦しくても走り続けなければならない。レースにエントリーした瞬間から、それは違えようのない約束みたいなものだ。1人のランナーとして走り出した時から、走り続ける努力を最優先に行わなければならない存在と化す。例えどんなにペースが落ちようとも…。
今回のぼくの目標は3時間半切り、且つネガティヴスプリットで完走することがテーマだ。6度目となるフルの中ではもっとも戦術的な計画を立てた。後はコンデイションと気持ち次第だった。
(会場の陸上競技場)
(トーク巧者の高橋尚子さん)
今年も走友会の気の置けない面々と共に、会場の陸上競技場へ乗り込む。天気は上々、気温が上がらないことを願うばかりだ。
ぼくはアップらしいことは一切やらずBブロックに整列する。信じられないぐらいスタートから近い。スピリットZさん、ヒグマサさんそれからKご夫妻と並んで号砲を待つ。
ぼくらを照りつける陽射しは気温の上昇を予感させた。号砲を待っている間、こまめな補給の必要を感じ、一先ず県庁の給水ポイントからしっかり補給することにした。
カウントダウンから号砲。定刻通り8:30にスタート。
スタート地点を超える。拍手と歓声。待ち望んだレースの始まりだ。
最初の1kmは辛うじて6分を切った。予定より時計が掛かったので、計画との帳尻を合わせるために2km以降は5分を切るペースで進む。
礎町から万代橋、ビルボードプレイスを通り県庁を目指す。辛くもなく苦しくもなく、むしろちょっと楽だった。始まったばかり。くれぐれも飛ばし過ぎないように慎重にアスファルトを踏んだ。
県庁のエイドで水を一口含み、残りを背中にかける。気持ちいい。
千歳大橋、ついで有明大橋へ。このあたりでスピリットZさんと並走をする。時々言葉を交わしながら5分を切るくらいで進んだ。
10kmの通過は49分48秒。予定通りだ。
12km付近、ちょっとした坂を上って下る。下りの際に湯沢ハーフを思い出し、歩幅を大きく取り脚の接地時間を短くする。すると勢いに乗ってスピードが一気に増す。同じペースのランナーの群れから一瞬抜け出した。単調な動きを続ける身体にひと刺激。
海岸線は4分55秒を頑なに守る。
気温が上がって来たのでエイド給水は欠かさなかった。それから15kmでジェル補給もした。何よりもスピリットZさんと並走することで気持ちに張りができた。
20km通過は1時間38分台。予想以上に楽に走れていた。
すぐに折り返し地点。
もう半分。いや、まだ半分だ。
新川漁港を通過したところ、23km付近でぼくは思い出したかのように2度目のジェル補給をした。特に理由はなかった。ジェルを口にすることで、30kmを超えてからの心構えみたいなものを今一度確認する。
並走していたスピリットZさんがペースを上げた。白い帽子と潟鉄ジャージが少しづつ遠ざかっていく。昨年は折り返しから28kmあたりまで彼の背中を見ながら走った。ぼくは計画通りアクセル温存だ。
30kmに近づくにつれて疲労を感じる。それでも昨年と比較すれば断然楽だった。長距離練習の成果か。けれど同時に30km以降でペースを上げる練習なんて一度たりともしていないことに一抹の不安を覚える。
30km通過は2時間28分。時計を確認してサブ3.5はちょっと無理かなと思う。残り12kmを1時間、つまり5分ペースで走れればギリギリ…いけるのか。頭の中で反芻しながら、ぼくはペースを上げた。
青山の坂を下り大堰橋へ出る。沿道の声援がにわかに多くなった。この辺りは4分40秒台をキープ。辛いなりに気持ちよく進む。恐らくこの日一番の快走だ。
タコ公園、関屋浜公園、そしてマリンピアぐらいまでは軽快だった。けれど35kmあたりから怪しくなり、双葉中学前の高橋尚子さんを通過した直後ぐらいから失速しだす。Qちゃんとタッチ出来たというのに、5分ペースを切ることが無くなってしまう。
湊タワーの最終関門を通過。昨年この辺りで心が折れそうになったことを思い返す。それに比べれば今年は楽だと自分に言い聞かす。
脚が重い。
ゴールまでの5kmをへっちゃらに走れるようになるのは、いつの日になるのだろう。ネガテイブな思考回路が働きだし苦しさが増す。歴史博物館、いつもお世話になっている田中屋団子屋さんを通過したあたりのことだった。
なぜフルマラソンは40kmじゃいけないのだろうと不満に思いつつも、残り2kmの万代橋を通過。
もう目標時間のことは、どうでも良くなってしまう。
とにかく完走。走りきれればいい。それでいいと、本気で思った。ついでに再来週の柏崎はDNSでもいいやと…。
そんなふうに全部を投げ出してゴールを目指さなければならかった。
残り1km。前方に走友会のTシャツが見える。ヒグマサさんだ。必死に背中を追いかける。陸上競技場へ入る手前で並ぶ。トラックに進むとゲートの時計が確認できた。3時間29分台。まだ間に合う!と思ったその時、何処からか力が湧く。ここ数ヶ月の努力を無駄にしてはいけない。咄嗟にスピードを上げたトラックを駆けゴールを目指した。
ゴールの瞬間は今年一番の思い出となった。しばらく忘れることは出来ないだろう。
グロスで3時間29分32秒、ネット28分55秒だった。ついにサブ3.5達成した。
(新潟シティのフィニッシュゲート)
会心のレースにはすこし物足りないけれど、37kmまでは力を抜くことなくやれた。マラソンは戦術的に進めた方が良い結果に恵まれるということを経験出来たレースだった。
ちなみに40km通過は3時間17分台。37km以降、一番遅かったペースは1km5分20秒台だった。結果的には粘り切ったという見方もできる。レース直前にメグメグさんから頂いた塩羊羹を32km過ぎで頬張った。アレのお陰かも。再来週の柏崎には持参することにしよう。次の目標に向かって。
10/14までの走行距離…144km