レース前夜というのは興奮や不安に苛まれることがしばしばで、ぼくは簡単にそれらに呑まれる人間だ。慎重に事を進めていたつもりだが、ここにおいて殆ど眠れずに大会当日の朝を迎えた。睡眠不足というのは少なくないのだが、ここまでひどいのは初めて佐渡大会に参加したときに匹敵する。
あれから遠に時間は経ちそれなりに経験を積んできたのだが、根本にある性質はそう簡単には変わらないだろう。気持ちが入るほど一方では抗う力が作用する。用意した入眠剤の効力はほぼ無効化し、時間を空けて追加で服用したが効果はわずかだった。部屋の気温、湿度、物音、寝具との相性、ぼくを取り巻く環境も上手くなかったのかもしれない。
そしてもっと最悪なことは相部屋の方に多大な迷惑を掛けたことだ。この場を借りて彼らに今一度謝罪したい。たいへん申し訳ありませんでした。
あれから遠に時間は経ちそれなりに経験を積んできたのだが、根本にある性質はそう簡単には変わらないだろう。気持ちが入るほど一方では抗う力が作用する。用意した入眠剤の効力はほぼ無効化し、時間を空けて追加で服用したが効果はわずかだった。部屋の気温、湿度、物音、寝具との相性、ぼくを取り巻く環境も上手くなかったのかもしれない。
そしてもっと最悪なことは相部屋の方に多大な迷惑を掛けたことだ。この場を借りて彼らに今一度謝罪したい。たいへん申し訳ありませんでした。
過度な睡眠不足でトライアスロンに臨めるのかと問われると答えに窮するのだけれど、これまでの経験では興奮が優って眠気を感じることはないが、思考能力や判断力の緩慢というべきか、気持ちが陰に入り易いというのも忘れてはならない。
今回はこういう不利な状況に落ちても、なにかを諦めようとまったくは考えなかった。トライアスロンの悪魔との契約は継続中とでもしておこう。
そんな状態で迎えた大会当日の朝3:30。ベッドから身体を起こし身支度に掛かる。ひとり朝食をかっ込み(朝ごはんは皆で食べようねと言っていた張本人が!)、手荷物の最終確認を行う。
トライアスロンは荷物の準備が少なくはない。何度も大会に参加しているので準備の慣れはあるが性格上複数回の確認をおこなう。準備の肝は、ずばりどれに何が入っているかの認識だ(定物定位)。ぼくは競技の順序で上から下に向かって確認するのを毎度の作法にしている。本大会はトランジションが2箇所なので荷の分別に心を砕く必要もある。
最終確認を終え今一度ベッドに横たわり、出発の合図があるまで身体を休める。満腹感も手伝ってほんのわずかな時間だが意識を失った気がした。
5:00を回った頃、宿を出る。この日のために駆けつけてくれたスーパーサポーター3名と彼らが作った応援旗、そして我らがチームテチの選手総勢5名で出発前の記念撮影。
この宮古島滞在、そして本命のトライアスロンを隅々まで楽しもうとする彼らと一緒で本当に良かった。ぼくのだらだら続く終らない話に確かな句読点を打ち込んでくれるようだ。何を得るかではなく何を与えられるか。彼らの根っこにある無意識的行動規範ではあるまいか。彼らと再会するたびに温かい気持ちになり敬意を払わずにはいられない。
車2台に分乗してスタート地点(スイム会場)へ向った。ぼくは移動中も目を閉じていた。軽バンの後部座席なのでちょっと窮屈だった。時々、目を開けて窓の外を眺める。雨に濡れたガラスに前を走る車のテールライトが滲んでいる。この時間の車なのだからきっと同じ目的なのだろう。未明の空、街灯は乏しくあたりは真っ暗だった。
東急ホテルリゾートの競技会場の入り口はアスリートの送迎の車で混雑していた。闇夜に人がわんさかいるのは違和感しかないが、これまで何度か目撃したことのある光景で既視感に近い感覚があった。前方にみえるバイク溜まりを煌々と照らすいくつかの照明が、準備する選手達の輪郭を描いている。ざわざわと物音に声が静かに聞こえる。これぞ宮古島大会早朝の1ページ。ぼくらは車を降り忘れ物がないか確認して両手で荷物を持った。「頑張って」と声をかけられたので「いってきます」と言葉を返し頭を下げた。
バイクラックへ赴き自身のバイクを点検する。照明の灯りが届かない場所なので持参したヘッドライトが頼りだった。夜露対策のバイクカバーを外し補給剤、ヘルメット、ゼッケンベルトにネッククーラーをセットして、スイム道具をしまう用に配られた白い袋を備え付けのフックに掛ける。これでバイクトランジションでの支度は完了する。
前日のバイク預託の際に決めておいた場所で仲間達と合流する。空が白んで周囲が輪郭を取り戻す頃、会場のアナウンスが大会実行決定を告げた。どよめきと拍手が起こる。予定通り競技が開催されるのだ。ぼくはデュアスロン用のシューズをレースフィニッシュ用の緑の袋に入れて自衛隊のトラックに預ける。
前日のバイク預託の際に決めておいた場所で仲間達と合流する。空が白んで周囲が輪郭を取り戻す頃、会場のアナウンスが大会実行決定を告げた。どよめきと拍手が起こる。予定通り競技が開催されるのだ。ぼくはデュアスロン用のシューズをレースフィニッシュ用の緑の袋に入れて自衛隊のトラックに預ける。
参加する5名のチームメイトと互いの指を絡め輪を作る。副キャプテンの掛け声と共に「あんぜんだいいちー」と元気よく声を上げる。長い1日がはじまろうとしていた。ぼくはスイムチェックを通過して宮古ブルーの海と白い砂浜へ降り立った。(つづく)
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